キャバレーは、日本における接待飲食店の一業態で、ホステスと呼ばれる女性従業員が客をもてなし、ダンスフロアを備えた飲食店である。第二次世界大戦後に登場し、昭和30年代から40年代にかけて全盛期を迎えた。風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という)において、接待飲食等営業の1号営業に分類される。オイルショックやスナック、キャバクラなどの後発業態に押され、2010年代以降は店舗数が激減し、2026年2月現在、営業を続けているキャバレーは全国でもわずかとなっている。
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概要
キャバレーは、ホステスによる接待と飲食を提供し、ダンスフロアを備えることを特徴とする風俗営業店である。名称はフランス語の”cabaret”に由来するが、日本のキャバレーは欧米の”cabaret”とは業態が大きく異なる。日本独自の発展を遂げた接待飲食店の一形態といえる。
風営法では「キヤバレーその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客の接待をして客に飲食をさせる営業」と定義される。これに対し、キャバクラは同じ接待飲食等営業であっても、ダンス設備を持たない点で区別される。また、ナイトクラブは「設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業」であり、席についての接待の有無で一応区別される。
昭和30年代から40年代の全盛期には、生バンドの演奏や豪華なショーを提供する大規模な店舗も多数存在した。特に100人を超えるホステスを擁し、大人数を収容できる絢爛豪華な店舗は「グランドキャバレー」と称された。
歴史
起源と黎明期
日本のキャバレーの遠い源流は、明治時代のカフェーに見ることができる。直接的な起源は、1945年11月に進駐軍向けに設立された特殊慰安施設協会キャバレー部が松屋銀座店地下に開業した「オアシス・オブ・ザ・ギンザ」とされる。同協会はその後、「キャバレー富士」(東京都立川市)、「ニューキャッスル」(東京都北多摩郡三鷹町)、「クラブエデン」(東京都京橋区木挽町)など複数の店舗を設け、ダンスホールと洋装ホステスを組み合わせた日本独自のキャバレーの形式が確立された。
全盛期
1960年3月、福富太郎(本名:中村勇志智)が東京都港区芝新橋に「踊り子キャバレー 新橋ハリウッド」を開業した。福富はボーイ出身からの独立で、ハリウッドをチェーン展開して財をなし、最盛期には全国に44店舗を構えて「キャバレー太郎」「キャバレー王」と呼ばれた。
この時代、多数のグランドキャバレーが全国に誕生した。著名なグランドキャバレーとして、日本海側最大の「キャバレー香港」(新潟県新潟市万代)、全盛期にホステス500人が在籍した「ミカド」(東京都港区赤坂田町)、1000坪超の床面積を誇った「クラブハイツ」(東京都新宿区歌舞伎町)などがあった。
衰退の始まり
1971年のドルショック、続く1973年のオイルショックにおいては、ネオンサインの自粛や諸般の事情から客足が遠のき、次々とキャバレーは廃業へ追い込まれていった。その後1976年頃よりディスコの台頭によってキャバレーの存続自体が難しくなり、さらに1980年代半ばからはキャバクラなどの新たな業態に押され、キャバレーは次第に劣勢になった。
2010年代以降の急速な衰退
2010年代に入ると、「地域で最後のキャバレー」という説明とともに店舗の閉店が報じられるようになった。東京では以下の店舗が順次閉店した。
- 2009年2月27日 クラブハイツ(最後の生バンドが入った1000㎡を超える大型グランドキャバレー)
- 2017年8月10日 レディタウン(最後の蒲田のグランドキャバレー)
- 2018年1月10日 白いばら(最後の銀座のキャバレー)
- 2018年12月30日 ハリウッド北千住店・赤羽店(都内で営業を続けていた最後のキャバレー)
- 2020年2月28日 ロータリー(歌舞伎町で最後、都内で最後のグランドキャバレー)
2013年5月の報道によると、同年2月に北海道札幌市中央区の「札幌クラブハイツ」が閉店したため、その時点で存続していた大型のキャバレーは日本全国でも東京都と大阪府だけになったとされる。2015年12月に閉店した山形県酒田市の「白ばら」は、東北地方で最後のキャバレーであったとされる。2020年3月に閉店した福岡市博多区中洲の「日本一の桃太郎 中洲店」は、中洲で最後のキャバレーであったとされる。
現存するキャバレー
2023年1月時点の報道によると、営業を続けているキャバレーは以下の店舗がある。
- 大阪市中央区千日前の「ミス大阪」
- 大阪市中央区千日前の「ザ・フレッシュ」
- 大阪市中央区千日前の「ミス・パール」
- 大阪市淀川区十三本町の「グランドサロン十三」
- 名古屋市を中心に7店舗を展開する「キャバレー花園」(名駅店、黒川店、今池店、住吉店、金山店、柴田店、桑名店)
- 島根県益田市駅前町の「キャバレー赤玉」
- 熊本県八代市本町の「キャバレーニュー白馬」(生バンドがある狭義の意味での最後のキャバレーとされる)
法的規制と営業形態
風営法上の位置づけ
風営法第2条第1項第1号に定める接待飲食等営業の1号営業に分類される。警視庁の資料によれば、1号営業は「キャバレー、待合、料理店、カフェーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食させる営業」と定義されている。
営業を行うためには、都道府県公安委員会の許可を受けることが必要である。
構造および設備要件
風営法施行規則第8条により、キャバレーの構造及び設備には以下の技術上の基準が定められている。
- 客室の床面積は、1室66平方メートル以上とし、ダンスをさせるための客室の部分の床面積がおおむねその5分の1以上であること
- 客室の内部が当該営業所の外部から容易に見通すことができないものであること
- 客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと
- 風俗を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと
これらの要件は、キャバクラなどの同じ1号営業に属する他の業態(客室面積16.5平方メートル以上)と比較して、はるかに広い面積を必要とする点が特徴的である。
許可の要件
風俗営業の許可を得るには、以下の要件を満たす必要がある。
人的要件
風営法第4条に定める欠格事由に該当しない者であることが必要である。具体的には、未成年者、一定の犯罪歴のある者、暴力団関係者などは許可を受けることができない。
場所的要件
営業所の所在地が、風営法第4条第2項に定める営業禁止区域内でないこと、及び学校、病院、図書館などの保護対象施設から一定の距離を保つことが求められる。
構造要件
前述の構造及び設備の技術上の基準を満たすことが必要である。
キャバレーとキャバクラの違い
キャバレーとキャバクラは、いずれも風営法上の1号営業に分類される接待飲食等営業であるが、以下のような違いがある。
| 項目 | キャバレー | キャバクラ |
|---|---|---|
| ダンス設備 | ダンスフロアを備えることが必須 | ダンス設備は不要 |
| 客室面積 | 1室66平方メートル以上 | 1室16.5平方メートル以上(和室9.5平方メートル以上) |
| ショー・生バンド | 生バンド演奏やショーを提供する店舗が多い | 通常は提供しない |
| 店舗規模 | 大規模な店舗が多く、客席数300以上のグランドキャバレーも存在 | 比較的小規模で、平均客席数は30席程度 |
| 料金体系 | セット料金制が主流 | 時間制・セット料金制が混在 |
| 歴史 | 1945年頃から存在 | 1980年代以降に登場 |
キャバクラは「キャバレークラブ」の略称とされ、キャバレーの接客方法とクラブの要素を組み合わせた業態として1980年代以降に普及した。キャバレーと比較して庶民的な価格帯であったことが、普及の一因とされる。
キャバレーと類似業態
クラブ(接待飲食店)
クラブもキャバレーと同様に接待飲食等営業に分類される接待飲食店であるが、キャバレーがダンス設備を備えることを要件とするのに対し、クラブはダンス設備を持たない点で区別される。また、クラブは一般的にキャバレーよりも高級な業態とされ、会員制や紹介制を採用する店舗も多い。
ホストクラブ
ホストクラブは、男性従業員(ホスト)が女性客に接待を行う業態であり、客層の性別が異なる点を除けば、キャバレーやキャバクラと類似した営業形態である。風営法上は同じ接待飲食等営業に分類される。
ガールズバー
ガールズバーは、カウンター越しに女性従業員が接客を行う業態である。カウンター越しでの接客は風営法上の「接待」に該当しないとされるため、風俗営業許可ではなく、深夜酒類提供飲食店営業の届出で営業が可能である。
性風俗店との区別
「ピンクキャバレー」や「しびれるキャバレー」などと称して性行為のサービスを行う店舗が存在するが、これらは本来のキャバレーとは異なり、実際の内容はピンサロ同様の性風俗関連特殊営業に該当する店舗である。キャバレーは風俗営業であり、性風俗関連特殊営業ではない。
労働環境と雇用形態
ホステスの雇用形態
キャバレーで働くホステスの雇用形態は、主に以下の形態がある。
実態としては労働基準法上の労働者に該当する場合が多く、地域別最低賃金以上の時給を保証することが求められる。また、売上に応じた歩合給やバック(インセンティブ)が支給される場合も多い。
労働法規の適用
風俗営業で働く従業員であっても、労働基準法、労働契約法などの労働法規が適用される。また、社会保険の加入要件を満たす場合には、事業主は従業員を社会保険に加入させる義務がある。
男性従業員の雇用
キャバレーでは、ホステス以外にも、店長、支配人、マネージャー、ボーイ、バーテンダー、ドライバーなど、多様な男性従業員が働いている。これらの職種は、正社員、契約社員、アルバイトなど、様々な雇用形態で募集される。風俗男性求人や高収入男性求人として募集されることもある。
市場動向と経営環境
市場規模の推移
キャバレーの市場規模は、1970年代をピークに長期的な縮小傾向にある。キャバクラ、ガールズバー、コンセプトカフェなど、より手軽な価格帯の業態の登場により、キャバレーの客足は減少した。
食の安全・安心財団による外食産業市場規模推移の統計によれば、バー・キャバレー・ナイトクラブの市場規模は、1990年代の約2.4兆円から、2020年代には1兆円台へと大きく縮小している。
倒産動向
東京商工リサーチの調査によると、2024年上半期(1月から6月)の「バー、キャバレー、ナイトクラブ」の倒産件数は過去10年間で最多を記録した。特に「キャバクラ」の倒産は10件(前年同期比150.0%増)と過去最多を更新した。
2026年1月の「飲食業」倒産は92件(前年同月比8.2%増)で、1月としては1997年以降の30年間で最多となった。特に「バー、キャバレー、ナイトクラブ」の倒産は急増しており、業界全体が厳しい経営環境に直面している。
文化的影響と遺産
昭和文化の象徴
キャバレーは、昭和時代の日本における大人の社交場として、文化的に重要な役割を果たした。政財界の重鎮が集う場でもあり、ビジネスや政治の舞台裏での交渉の場としても機能した。
建築と空間
大規模なグランドキャバレーは、絢爛豪華な内装、広大なダンスフロア、本格的なステージ設備を備え、独特の空間を演出した。これらの建築物の一部は、閉店後にイベントスペースとして再利用されている。
- 東京都台東区根岸の「ワールド」は、閉店後「東京キネマ倶楽部」としてイベントスペースに転用された
- 東京都新宿区歌舞伎町の「ニュージャパン」も、閉店後イベントスペースとなった
- 大阪市の味園ビルにあった「ユニバース」は、閉店後貸しホールとなった
関連分野の基礎知識
風俗営業の種類
風営法第2条第1項に定める風俗営業は、以下の5種類に分類される。
| 営業号 | 営業形態 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 1号営業 | 接待飲食等営業 | キャバレー、キャバクラ、料理店、クラブ、ホストクラブ |
| 2号営業 | 低照度飲食店 | 照度10ルクス以下で営業する飲食店 |
| 3号営業 | 区画席飲食店 | 5平方メートル以下の個室を設ける飲食店 |
| 4号営業 | 遊技場営業 | 麻雀店、パチンコ店など |
| 5号営業 | ゲームセンター等 | ゲームセンターなど |
性風俗関連特殊営業との違い
風俗営業と性風俗関連特殊営業は、風営法においてそれぞれ別の章で規定される異なる営業形態である。
性風俗関連特殊営業には以下のような業態が含まれる。
- 店舗型性風俗特殊営業: ソープランド、ファッションヘルス、ストリップ劇場、ラブホテル、アダルトショップ、出会い系喫茶など
- 無店舗型性風俗特殊営業: デリヘルなど
- 映像送信型性風俗特殊営業: ライブチャットなど
キャバレーは風俗営業に分類され、性的サービスを提供する性風俗関連特殊営業とは明確に区別される。
特定遊興飲食店営業との関係
2015年の風営法改正により、特定遊興飲食店営業の区分が新設された。これは、深夜(午前0時以降)に客にダンスをさせ、かつ酒類を提供する営業を指す。従来風俗営業許可を受けた店舗は深夜営業ができなかったが、この改正によりクラブやディスコなどが合法的に深夜営業できるようになった。
ただし、キャバレーは接待を伴うため、特定遊興飲食店営業の定義から除外されており、依然として深夜営業は認められていない。
ナイトタイムエコノミー
近年、夜間の経済活動を活性化させるナイトタイムエコノミーという概念が注目されている。キャバレーを含むナイトレジャー産業は、このナイトタイムエコノミーの重要な構成要素である。
脚注・注釈・出典
- a b c d e f g 都築響一「東京キャバレー文化の終焉」ROADSIDERS’ weekly、2019年2月 https://roadsiders.com/special/rip003.php
- 「福富太郎そしてキャバレーハリウッドの思い出」 https://www.ne.jp/asahi/joy/sasayama/zuisouroku-fukutomitarou.htm
- 福富太郎著『昭和キャバレー秘史』文藝春秋 ISBN 9784167656959
- a b なかだえり「”健全夢世界”の終焉 さようなら! 銀座キャバレー「白いばら」」『東京人』第33巻2号、都市出版、2018年2月、126-132頁
- a b 「”都内最後”キャバレーの灯が消える 「ハリウッド」北千住、赤羽店が30日閉店」ZAKZAK、夕刊フジ、2018年12月28日 http://www-origin.zakzak.co.jp/soc/news/181228/soc1812280020-n1.html
- 宇都宮想「消えるキャバレー、消える「昭和」、消える”情”…客を見詰め続けたホステスたちは文化を守った」産経ニュース、2013年5月6日
- a b 「昭和キャバレー 貸しスペースに/閉店の酒田「白ばら」復活」『河北新報』2016年4月27日
- 「さよなら、キャバレー」NHKニュース、日本放送協会、2020年3月3日
- 「ザ・キャバレー「栄枯盛衰」回顧録(3)2020年2月、ついに閉店の時が…」アサ芸biz、徳間書店、2020年4月19日 https://asagei.biz/excerpt/10642
- 井崎圭「中洲で最後のキャバレー閉店 「日本一の桃太郎」41年の歴史に幕」西日本新聞、2020年4月2日
- 「風俗営業等業種一覧」警視庁ホームページ、2025年8月7日更新 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/tetsuzuki/fuzoku/gyoshu_ichiran.html
- 「キャバレー (接待飲食店)」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』、2025年5月17日更新版 https://ja.wikipedia.org/wiki/キャバレー_(接待飲食店)
- 「特殊慰安施設協会」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』 https://ja.wikipedia.org/wiki/特殊慰安施設協会
- 「2026年1月の「飲食業」倒産 30年間で最多の92件 夜の「居酒屋」「バー,キャバレー,ナイトクラブ」が急増」東京商工リサーチ、2026年2月9日 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202387_1527.html
- 「2024年上半期の「バー・キャバレー・ナイトクラブ」の倒産状況を調査」東京商工リサーチ、2024年7月 https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP675230_S4A720C2000000/
- 「「バー,キャバレー,ナイトクラブ」倒産止まらずインバウンドで客戻るも」東京商工リサーチ、2025年9月 https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1201848_1527.html
- 「キャバレー花園公式サイト」 https://hanazono-g.co.jp/
- 「キャバレー赤玉公式サイト」 https://www.akadama-cabaret.com/
- 「キャバレーニュー白馬」熊本県観光連盟
関連項目
- キャバクラ
- クラブ (接待飲食店)
- ホストクラブ
- ガールズバー
- 風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)
- 接待飲食等営業
- 特定遊興飲食店営業
- 深夜酒類提供飲食店営業
- 接待
- 風俗営業
- 性風俗関連特殊営業
- 吉原遊廓
- ナイトタイムエコノミー
- ナイトレジャー
- 色恋営業
- 労働基準法
- 風俗男性求人
- 高収入男性求人








