特定遊興飲食店営業

特定遊興飲食店営業とは、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第2条第11項に規定される営業形態の一つである。ナイトクラブその他の設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る)で、午前6時後翌日の午前0時前の時間においてのみ営むもの以外のものを指す。平成28年(2016年)6月23日に改正風営法の施行により新設された営業許可制度であり、深夜におけるナイトクラブやライブハウスなどの営業を適法化する目的で導入された[1]。

本制度の創設により、それまで風営法第2条第1項第3号の風俗営業として規制されていたダンスをさせる営業の一部が対象外となり、深夜において客にダンスをさせながら酒類を提供する営業が公安委員会の許可を受けることで合法的に営業できるようになった[2]。本営業形態は風俗営業とは別個の許可制度であり、都道府県公安委員会による厳格な審査と継続的な監督下に置かれている。

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概要

特定遊興飲食店営業は、深夜(午前0時から午前6時までの時間帯)において、客に遊興をさせながら酒類の提供を伴う飲食をさせる営業形態である。本制度は平成26年(2014年)の風営法改正により創設され、平成28年(2016年)6月23日から全面的に施行された[3]。

制度創設の経緯

従来、ナイトクラブは風営法第2条第1項第3号の風俗営業として位置づけられており、深夜における営業が原則として禁止されていた。しかし、ダンス文化の発展や国際的なナイトタイムエコノミー推進の観点から、ダンス営業に対する規制緩和を求める声が高まった。こうした背景のもと、平成26年の法改正では「客にダンスをさせる」という文言が風俗営業の定義から削除され、代わりに深夜における遊興と酒類提供を伴う営業形態として特定遊興飲食店営業が新設された[4]。

この改正により、ダンスそのものを規制対象とするのではなく、深夜における遊興行為全般と酒類提供の組み合わせに着目した規制体系へと転換が図られた。改正法の施行に先立ち、平成28年3月23日から各都道府県において許可申請の受付が開始され、同年6月23日の全面施行日に合わせて多くの営業所が許可を取得した[5]。

定義と要件

特定遊興飲食店営業として規制対象となるためには、以下の3つの要件を全て満たす必要がある[6]。

  • 第一に、深夜の時間帯に営業を行うことである。ここでいう深夜とは、午前0時から午前6時までの時間をいう。したがって、午前6時以降から翌日午前0時までの時間帯のみで営業する場合は、本営業形態には該当しない。
  • 第二に、客に遊興をさせることである。遊興の定義については後述するが、ダンスをさせる行為のほか、ショーや演芸を見せる行為、生バンドの演奏を聴かせる行為などが含まれる。単に音楽を流すだけでなく、営業者側の積極的な働きかけによって客を遊び興じさせることが要件となる。
  • 第三に、客に酒類を提供することである。酒類の提供を伴わない飲食のみの営業や、酒類を一切提供しない営業は本営業形態に該当しない[7]。

なお、上記3要件を満たす営業であっても、接待を伴う営業として風俗営業に該当する場合は、特定遊興飲食店営業ではなく接待飲食等営業(風営法第2条第1項第1号)の許可が必要となる。

遊興の定義と具体例

風営法上の「遊興」とは、営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせることを意味する[8]。単に客が自発的に楽しむだけでは遊興には該当せず、営業者が能動的に働きかけて客を娯楽に興じさせる行為であることが必要とされる。

遊興に該当する行為

具体的に遊興に該当するとされる行為としては、以下のようなものが挙げられる[9]。

不特定の客にショー、ダンス、演芸その他の興行等を見せる行為がこれに当たる。舞台上でのダンスパフォーマンスやコメディショー、マジックショーなどを営業者が企画・実施し、客に観覧させる場合である。

不特定の客に歌手がその場で歌う歌、バンドの生演奏等を聴かせる行為も遊興に該当する。生バンドによるライブ演奏や歌手による生歌唱を営業の主要なサービスとして提供する場合がこれに当たる。ただし、単にBGMとして音楽を流すだけの行為は遊興とはみなされない。

客にダンスをさせる場所を設けるとともに、音楽や照明の演出等を行い、不特定の客にダンスをさせる行為も遊興の典型例である。営業者がダンスフロアを設置し、DJ等による音楽提供や照明演出を行って客を踊らせる場合が該当する。

このほか、客にカラオケ設備を利用させる行為や、スポーツ観戦のための大型スクリーンを設置して試合中継を視聴させながら応援を煽る行為なども、態様によっては遊興に該当し得るとされている[10]。

遊興に該当しない行為

一方、客が自発的に楽しむだけで営業者側の積極的な働きかけがない場合や、単に環境を提供しているのみの場合は遊興に該当しないと解される。例えば、単にBGMとして音楽を流しているだけの飲食店や、客が自由に利用できるダーツやビリヤードの設備を置いているだけの店舗は、特定遊興飲食店営業には該当しない可能性が高い。

ただし、個別の事案ごとに営業の実態を総合的に判断する必要があり、形式的には遊興に該当しないように見えても、実質的に営業者が積極的に客を遊興させていると認められる場合には、特定遊興飲食店営業の許可が必要となる場合がある[11]。

許可制度

特定遊興飲食店営業を営もうとする者は、営業所ごとに、当該営業所の所在地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない(風営法第31条の22)[12]。許可申請の窓口は営業所の所在地を管轄する警察署の生活安全課である。

許可要件

許可を受けるためには、人的要件、場所的要件、構造設備要件の3つの観点から審査が行われる[13]。

人的要件

申請者本人が風営法第4条に定める欠格事由に該当しないことが必要である。欠格事由には、破産手続開始決定を受けて復権を得ない者、一定の刑罰を受けて5年を経過しない者、暴力団関係者、アルコールや薬物の中毒者、心身の故障により業務を適正に実施できない者などが含まれる[14]。

法人が申請する場合は、役員全員が欠格事由に該当しないことが求められる。また、法人の株主構成についても審査の対象となり、暴力団関係者が実質的に支配している法人には許可が与えられない。

場所的要件

営業所の設置が許される地域は、都道府県の条例により定められた営業所設置許容地域に限定される。多くの都道府県では、商業地域や近隣商業地域などの用途地域内で営業が認められているが、住居系の用途地域では営業が禁止されている[15]。

また、保全対象施設からの距離制限も設けられている。学校(大学を除く)、図書館、児童福祉施設、病院、診療所などの保全対象施設から一定距離(例えば、商業地域では50メートル以上、その他の地域では70メートル以上など)離れていることが必要とされる場合が多い[16]。ただし、具体的な距離制限は都道府県ごとの条例により異なる。

構造設備要件

営業所の構造及び設備が、風営法及び関係法令に定める基準に適合していることが必要である[17]。主な基準としては以下のようなものがある。

客室の床面積は、1室あたり33平方メートル以上であることが求められる。客室の内部には、見通しを妨げる設備を設けてはならない。善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けてはならない。

照明設備については、営業所内の照度が国家公安委員会規則で定める基準(概ね10ルクス以上)を保つことができるものでなければならない。ただし、特定遊興飲食店営業では、風俗営業と異なり低照度での営業も認められる場合がある。

騒音又は振動の数値が一定の数値に満たないように維持されるための必要な構造又は設備を有することも求められる。すなわち、十分な防音対策が必要となる。具体的な騒音基準値は都道府県の条例により定められており、例えば商業地域では境界線上で75デシベル以下といった基準が設けられている場合がある[18]。

消防法に基づく防火設備の設置も必須である。特定遊興飲食店営業のうち、客にダンスをさせるものを営む施設は、消防法施行令上「ナイトクラブ」に分類され、厳格な防火基準が適用される[19]。

許可申請手続

許可申請にあたっては、許可申請書のほか、営業の方法を記載した書面、営業所の図面(平面図、求積図、照明配置図、音響設備配置図など)、申請者及び役員の住民票、登記事項証明書(法人の場合)、欠格事由に該当しない旨の誓約書、管理者の選任届など、多数の書類を提出する必要がある[20]。

申請書類の提出後、警察による実地調査が行われる。この調査では、営業所の構造設備が申請書類の記載内容と相違ないか、法令の基準に適合しているかなどが確認される。実地調査で不備が発見された場合は、補正や改修が求められることがある。

審査期間は各都道府県により異なるが、概ね55日程度を要する場合が多い。審査の結果、許可が下りると許可証が交付される。許可の有効期間は定められておらず、廃業や許可取消しがない限り継続する[21]。

許可申請に際しては、都道府県ごとに定められた手数料の納付が必要である。手数料の額は都道府県により異なるが、概ね24,000円程度とされている場合が多い[22]。

営業上の規制

特定遊興飲食店営業者には、風営法により様々な規制が課せられている。

営業時間の制限

都道府県の条例により、営業時間の一部に制限が加えられている場合が多い。東京都をはじめ多くの都道府県では、午前5時から午前6時までの時間帯は営業が禁止されている[23]。したがって、実質的には午前6時から翌日午前5時までの23時間が営業可能時間となる。

一部の都道府県では、特定の地域に限り営業時間の制限を緩和する例外規定を設けている場合もある。例えば、繁華街などの特定地域では営業時間の規制が適用されない場合がある。

年少者の立入制限

特定遊興飲食店営業の営業所には、18歳未満の者を客として立ち入らせてはならない(風営法第22条第1項第1号)[24]。これは、深夜における遊興と飲酒を伴う営業が少年の健全な育成に悪影響を及ぼすおそれがあるためである。

また、営業所において午後10時から翌日の午前6時までの間、18歳未満の者を客に接する業務に従事させてはならない(同条第3項)。この規制により、18歳未満の者は従業員としても深夜時間帯に就労することができない。

未成年の立入りや就労を防止するため、営業者は客や従業員の年齢確認を行う義務があり、顔写真付きの身分証明書による確認が推奨されている[25]。

管理者の選任

特定遊興飲食店営業者は、営業所ごとに、営業所の業務を統括管理する管理者を選任しなければならない(風営法第24条第1項)[26]。管理者は、営業者自身又は営業所の従業者のうちから選任される。

管理者の選任にあたっては、欠格事由に該当しない者であることが必要である。管理者の欠格事由は営業者の欠格事由と概ね同様であり、一定の前科がある者や暴力団関係者などは管理者になることができない。

管理者は、概ね3年に1回の頻度で、都道府県公安委員会が指定する者が行う管理者講習を受講しなければならない(同条第6項)[27]。この講習では、風営法の内容、営業所の適正な管理方法、関係法令の遵守事項などが教示される。

遵守事項

特定遊興飲食店営業者は、以下のような事項を遵守しなければならない[28]。

営業所において客に飲食をさせるに当たり、客に酩酊して粗野又は乱暴な言動をするよう積極的に勧めることや、客に酒類を提供して営業を営むに当たり、客が泥酔することを知りながら客に酒類を提供することは禁止されている。

営業所における著しく騒がしい音又は声により付近の住民の平穏を害することのないように必要な措置を講じなければならない。これは近隣住民との調和を図るための規制である。

営業所の周辺における客引き行為や、広告宣伝活動についても一定の制限が設けられている。公共の場所での執拗な客引きや、わいせつな広告の掲示などは禁止される。

従業者名簿の備付けも義務付けられており、従業者の氏名、住所、生年月日などを記載した名簿を営業所に備え置き、警察官の求めに応じて提示できるようにしなければならない。

禁止行為

特定遊興飲食店営業者は、次に掲げる行為を行ってはならない[29]。

営業所において客に売春をさせ、又は客に売春をさせることを内容とする職業を紹介することは厳格に禁止されている。本営業形態は健全な娯楽を提供するものであり、性的サービスを提供する性風俗関連特殊営業とは明確に区別されている。

営業所において客に麻薬、大麻、あへん又は覚せいを使用させることも禁止される。薬物の使用は刑法上の犯罪であるとともに、風営法上も厳格な禁止対象となっている。

18歳未満の者を営業所に客として立ち入らせることや、午後10時から翌日午前6時までの間に18歳未満の者を客に接する業務に従事させることは前述のとおり禁止されている。

義務的措置

特定遊興飲食店営業者は、営業所内における暴行、傷害、脅迫、恐喝その他の暴力事犯の発生を防止するため、客の動静に常に注意を払う必要がある。また、風営法違反や他の犯罪行為を認知した場合には、警察への通報義務を負う[30]。

営業所内の衛生管理についても注意が必要である。食品衛生法に基づく飲食店営業許可も別途必要となるため、保健所の指導に従い適切な衛生管理を行わなければならない。

代表的な営業形態

特定遊興飲食店営業に該当する代表的な営業形態としては、以下のようなものがある。

ナイトクラブ

ナイトクラブは、特定遊興飲食店営業の典型例である。DJによる音楽提供とダンスフロアを中心とした営業形態であり、深夜から早朝にかけて営業を行う。照明や音響設備による演出を通じて客を踊らせることが営業の主眼となる[31]。

従来は風営法第2条第1項第3号の風俗営業として規制され、深夜営業が原則禁止されていたが、特定遊興飲食店営業制度の創設により、適切な許可を取得することで深夜営業が可能となった。都市部の繁華街を中心に多数の営業所が存在する。

ライブハウス

生バンドの演奏を主体とするライブハウスも、深夜に酒類を提供する場合は特定遊興飲食店営業に該当する。ステージ上での生演奏を客に聴かせる行為が遊興に該当するためである[32]。

ライブハウスの場合、音響設備が大規模になることが多く、防音対策が特に重要となる。また、消防法上の基準も厳格に適用されるため、避難経路の確保や防火設備の設置に十分な注意が必要である。

ショーパブ

ショーパブは、ダンスショーやマジックショーなどの興行を見せながら飲食を提供する営業形態である。舞台上でのパフォーマンスを不特定の客に見せる行為が遊興に該当する[33]。

ショーパブでは、出演者と客との距離が近く、接触の機会も生じ得るため、接待行為との境界が問題となる場合がある。接待に該当する行為を行う場合は、特定遊興飲食店営業ではなく風俗営業(第1号)の許可が必要となる点に注意が必要である。

スポーツバー

大型スクリーンでスポーツ中継を視聴させ、応援イベントなどを行うスポーツバーも、営業の態様によっては特定遊興飲食店営業に該当する場合がある。営業者が積極的に応援を煽ったり、イベントを企画して客を遊興させる場合がこれに当たる[34]。

ただし、単にテレビ画面でスポーツ中継を流しているだけで、営業者側の積極的な働きかけがない場合は、遊興に該当せず、通常の飲食店営業又は深夜酒類提供飲食店営業の届出で営業できる場合もある。

他の営業形態との関係

風俗営業との区別

特定遊興飲食店営業は、風俗営業とは別個の営業形態である。両者の主な相違点は以下のとおりである。

風俗営業(第1号)は、客の接待を伴う営業であるのに対し、特定遊興飲食店営業は接待を伴わず遊興を提供する営業である。キャバクラホストクラブは風俗営業に該当し、ナイトクラブやライブハウスは特定遊興飲食店営業に該当する[35]。

風俗営業は原則として深夜(午前0時以降)の営業が禁止されているが、特定遊興飲食店営業は深夜営業が前提となっている。ただし、一部の地域では風俗営業についても深夜営業が例外的に認められる場合がある。

また、風俗営業では客室の照度が常時10ルクス超に保たれなければならないなど、構造設備基準に相違がある。

深夜酒類提供飲食店営業との区別

深夜酒類提供飲食店営業は、深夜において酒類を提供する飲食店営業であって、接待や遊興を伴わない営業形態である(風営法第33条)[36]。通常のバーや居酒屋など、単に飲食を提供するだけの営業がこれに該当する。

深夜酒類提供飲食店営業は許可制ではなく届出制であり、規制の程度が特定遊興飲食店営業よりも緩やかである。ただし、営業開始の10日前までに所轄警察署への届出が必要となる。

営業者が客に遊興をさせる行為を行う場合は、深夜酒類提供飲食店営業ではなく特定遊興飲食店営業の許可が必要となる。両者の境界は必ずしも明確でなく、個別の営業実態に応じて判断される[37]。

性風俗関連特殊営業との区別

特定遊興飲食店営業は、性風俗関連特殊営業とは明確に区別される。店舗型性風俗特殊営業には、ソープランドファッションヘルスピンサロストリップ劇場などが含まれ、性的サービスの提供を目的とする営業である[38]。

特定遊興飲食店営業は健全な娯楽を提供する営業であり、性的サービスの提供は厳格に禁止されている。仮に特定遊興飲食店営業の営業所内で売春行為等が行われた場合、営業者は風営法違反として許可取消しを含む厳しい処分を受けることとなる。

監督と罰則

行政監督

都道府県公安委員会は、特定遊興飲食店営業の適正な運営を確保するため、営業者に対して指示、営業停止、許可取消しなどの行政処分を行うことができる(風営法第36条、第37条)[39]。

指示処分は、営業者が風営法の規定に違反した場合に、違反状態の是正や再発防止を命じるものである。営業停止処分は、違反の程度が重い場合や指示処分に従わない場合に、一定期間の営業停止を命じるものである。許可取消処分は、重大な違反があった場合や営業者が欠格事由に該当するに至った場合に行われる。

警察官は、風営法の施行に必要な限度において、営業所への立入り、帳簿書類の検査、関係者への質問などを行うことができる(風営法第38条)[40]。営業者はこれらの調査に協力する義務を負う。

罰則

特定遊興飲食店営業に関する風営法違反には、刑事罰が科される場合がある。主な罰則は以下のとおりである[41]。

無許可営業を行った者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処せられ、又はこれらが併科される(風営法第49条第1号)。特定遊興飲食店営業は厳格な許可制であり、無許可営業に対しては厳しい罰則が適用される。

営業所において売春をさせた者や、18歳未満の者を客として立ち入らせた者なども、同様の刑罰の対象となる(同条第3号、第4号)。

営業停止命令に違反して営業を継続した者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処せられ、又はこれらが併科される(風営法第50条第1項第1号)。

許可条件違反や遵守事項違反については、6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金、又は50万円以下の罰金が科される場合がある(風営法第50条第1項、第51条)。

法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、行為者が罰せられるほか、法人に対しても罰金刑が科される両罰規定が設けられている(風営法第55条)[42]。

関連法令との関係

食品衛生法

特定遊興飲食店営業を営む場合、風営法の許可とは別に、食品衛生法第52条に基づく飲食店営業許可を保健所から取得する必要がある[43]。両方の許可を取得して初めて、適法に営業を開始することができる。

食品衛生法上の飲食店営業許可を受けるためには、営業施設の構造設備が食品衛生法施行規則に定める基準に適合していることが必要である。厨房の設置、給排水設備、手洗い設備、冷蔵設備などが規制対象となる。

食品衛生責任者の設置も義務付けられており、調理師資格を有する者又は食品衛生責任者養成講習会を修了した者を配置しなければならない。

消防法

特定遊興飲食店営業の営業所は、消防法上の防火対象物に該当し、用途や規模に応じた防火設備の設置が義務付けられている[44]。

特に、客にダンスをさせるものを営む施設は、消防法施行令別表第一(2)項ロに規定する「ナイトクラブ」に分類され、厳格な防火基準が適用される。具体的には、消火器、避難器具、誘導灯、自動火災報知設備、スプリンクラー設備などの設置が義務付けられる場合がある。

営業開始前には、消防署に対して防火対象物使用開始届出を行い、消防設備等の検査を受ける必要がある。また、営業開始後も定期的に消防設備の点検を実施し、その結果を消防署に報告しなければならない。

建築基準法

営業所として使用する建物が、建築基準法上の用途制限や構造基準に適合していることも必要である[45]。特定遊興飲食店営業は「飲食店」として扱われるが、用途地域によっては建築や用途変更が制限される場合がある。

また、建物の一部を改装して営業所とする場合、一定規模以上の改装工事については建築確認申請が必要となる場合がある。構造耐力、防火、避難などの観点から、建築基準法の規定に適合した工事を行わなければならない。

労働関係法令

特定遊興飲食店営業においても、従業員を雇用する場合は、労働基準法労働契約法、最低賃金法などの労働関係法令が適用される[46]。

深夜労働(午後10時から午前5時まで)については、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払う必要がある。時間外労働を行わせる場合は、36協定の締結と届出が必要となる。

18歳未満の者については、風営法により深夜時間帯の就労が禁止されているほか、労働基準法により深夜業や危険有害業務への就労が制限されている。また、労働基準法第61条により、18歳未満の者を深夜(午後10時から午前5時まで)に使用することは原則として禁止されている。

社会保険や雇用保険への加入義務も、通常の事業所と同様に適用される。常時5人以上の従業員を雇用する場合は、健康保険及び厚生年金保険への加入が義務付けられる。

運用上の課題

規制の曖昧性

特定遊興飲食店営業における「遊興」の定義は必ずしも明確でなく、営業実態に応じた個別判断が必要となる。このため、営業者にとっては自店の営業形態が特定遊興飲食店営業に該当するか否かの判断が困難な場合がある[47]。

例えば、ライブハウスにおいて生演奏を行う場合でも、その頻度や規模によっては遊興に該当しないと判断される場合がある。また、スポーツバーにおける応援イベントについても、営業者の関与の程度によって判断が分かれる可能性がある。

このような曖昧性を解消するため、営業開始前に所轄警察署に相談し、営業内容を説明した上で必要な許可や届出について確認することが推奨されている。

許可取得の困難性

特定遊興飲食店営業の許可を取得するためには、場所的要件や構造設備要件などの厳格な基準を満たす必要があり、許可取得が困難な場合も少なくない[48]。

特に、都市部の繁華街では保全対象施設からの距離制限により営業可能な場所が限定されている場合がある。また、既存の建物を改装して営業所とする場合、防音工事や防火設備の設置に多額の費用を要することも課題となっている。

さらに、許可申請に必要な書類が多岐にわたり、申請手続きが煩雑であることも指摘されている。行政書士などの専門家に依頼することも可能であるが、その場合は報酬の支払いが必要となる。

近隣住民との調和

特定遊興飲食店営業は、音楽や歓声などにより騒音が発生しやすい営業形態である。このため、近隣住民との騒音トラブルが問題となることがある[49]。

風営法では、騒音による近隣住民の平穏を害することのないよう必要な措置を講じることが義務付けられているが、具体的にどの程度の防音対策を講じれば足りるかは必ずしも明確でない。条例により騒音基準値が定められている場合もあるが、基準を満たしていても近隣住民から苦情が寄せられる場合がある。

営業者としては、十分な防音工事を実施するとともに、営業開始前に近隣住民への説明を行い、理解を得る努力が求められる。また、深夜時間帯の音量を抑制するなど、自主的な配慮も必要となる。

無許可営業の存在

特定遊興飲食店営業の許可を取得せずに営業を行っている事例も指摘されている[50]。無許可営業は風営法違反として刑事罰の対象となるが、取締りの困難性や人員不足などから、全ての違反事例を摘発することは困難な状況にある。

無許可営業は、適法に営業を行っている事業者との公平性を損なうとともに、少年の健全な育成や善良な風俗の保持という風営法の目的にも反する行為である。警察による取締り強化とともに、営業者による法令遵守の徹底が求められている。

関連分野の基礎知識

ナイトタイムエコノミー

ナイトタイムエコノミーとは、夜間の時間帯における経済活動全般を指す概念であり、飲食業、娯楽業、観光業などが含まれる[51]。欧米諸国では、ナイトタイムエコノミーが都市の経済活性化や文化発展に重要な役割を果たしているとされ、その振興が政策課題として位置づけられている。

日本においても、特定遊興飲食店営業制度の創設は、ナイトタイムエコノミー振興の一環として位置づけられる。深夜における健全な娯楽の提供が可能となったことで、訪日外国人観光客の受入環境の整備や、都市の魅力向上につながることが期待されている。

クラブカルチャー

クラブカルチャーとは、ナイトクラブを中心として発展してきた音楽文化や若者文化を指す[52]。電子音楽(テクノ、ハウス、トランスなど)やヒップホップなどの音楽ジャンルが、クラブという場を通じて普及してきた。

日本では、長年にわたりクラブでの深夜営業が風営法により規制されてきたため、クラブカルチャーの発展が阻害されているとの指摘があった。特定遊興飲食店営業制度の創設により、合法的な深夜営業が可能となったことで、クラブカルチャーのさらなる発展が期待されている。

ダンス規制の歴史

日本では、戦後の風営法制定以来、長年にわたり「客にダンスをさせる営業」が風俗営業として規制されてきた[53]。この規制は、戦後の混乱期において売春等の風俗事犯がダンスホールで多発したことを背景として導入されたものである。

しかし、時代の変遷とともに、健全なダンス文化やクラブカルチャーまでが規制対象となることへの疑問が高まった。特に2000年代以降、ダンス規制の撤廃を求める市民運動が活発化し、議員連盟の結成や署名活動などが展開された。

こうした動きを受けて、平成26年の風営法改正により「客にダンスをさせる」という文言が風俗営業の定義から削除され、ダンス自体に着目した規制が撤廃された。代わりに、深夜における遊興と酒類提供の組み合わせに着目した特定遊興飲食店営業制度が創設された。

比較法的観点

諸外国においては、日本の特定遊興飲食店営業に相当するような営業形態に対して、どのような規制が行われているかについては、国ごとに大きく異なる[54]。

欧米諸国の多くでは、ナイトクラブ等の営業に対して、営業許可制や届出制が採用されているが、日本ほど厳格な規制は行われていない場合が多い。特に、営業時間の制限や保全対象施設からの距離制限などについては、日本の方が規制が厳しいとされる。

一方、アジア諸国の中には、日本と類似した規制体系を有する国も存在する。ただし、各国の法制度や社会的背景により、規制の内容や運用は大きく異なる。

国際的なナイトタイムエコノミーの発展や訪日外国人観光客の増加を踏まえ、日本の規制のあり方についても、国際比較の視点から検討が続けられている。


脚注・注釈・出典


関連項目


外部リンク

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