労働契約法

労働契約法とは、労働者と使用者との間で締結される労働契約について、その基本的なルールを定めた日本の法律である。平成19年(2007年)12月5日に公布され、平成20年(2008年)3月1日に施行された。法律番号は平成19年法律第128号。個別の労働者と使用者の関係を規律する民事的なルールを明確化し、労働契約が合意によって成立・変更されることを原則としつつ、労働契約の成立・変更・終了に関する基本的なルールを定めている。労働基準法が刑事罰を伴う最低基準を定めているのに対し、労働契約法は民事的な労働契約のルールを定めることに特化している。

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概要

労働契約法は、個別労働関係における労働契約について、その成立、変更、終了に関する基本的な民事ルールを定めた法律である。従来、労働契約に関する規律は判例法理によって形成されてきたが、それを法律として明文化することで、労働者と使用者の権利義務関係を明確化し、労働契約に関する紛争を予防することを目的としている。

同法は全19条からなり、労働契約の基本原則、労働契約の成立及び変更、労働契約の継続及び終了に関する規定を設けている。特に、解雇権濫用法理の明文化、有期雇用労働者の雇用安定を図るための規定、労働条件の不利益変更に関するルールなど、労働者保護に配慮した内容となっている。

労働契約法は、労働基準法労働組合法労働関係調整法からなる労働三法に次ぐ、重要な労働関係法令のひとつとして位置づけられている。

立法の経緯と背景

立法前の状況

労働契約法の制定以前、個別労働関係に関する紛争は増加傾向にあった。厚生労働省によれば、個別労働紛争の相談件数は、平成13年度(2001年度)の総合労働相談コーナーの設置以降、増加の一途をたどっていた。これは雇用形態の多様化や労働者の権利意識の高まりなどが背景にあるとされた。

このような状況において、労働契約に関する基本的なルールが民法の一般原則と判例法理によってのみ形成されてきたため、労働者・使用者双方にとって権利義務関係が不明確であり、紛争の予防や早期解決が困難であるという問題が指摘されるようになった。

労働政策審議会での審議

平成17年(2005年)から平成18年(2006年)にかけて、労働政策審議会労働条件分科会において、労働契約法制の整備に関する検討が行われた。同分科会は平成18年12月27日に「今後の労働契約法制の在り方について(報告)」を取りまとめ、労働契約の成立・変更・終了に関する民事的なルールを明確化する必要性を提言した。

この報告書を受けて、厚生労働省は平成19年(2007年)に労働契約法案を第166回通常国会に提出し、同年11月28日に可決・成立した。

施行と改正

労働契約法は平成20年(2008年)3月1日に施行された。その後、有期労働契約に関する規定の整備を中心とした重要な改正が行われた。

平成24年(2012年)8月10日に成立した改正労働契約法(平成24年法律第56号)では、有期労働契約の反復更新による無期転換ルール(第18条)、雇止め法理の法定化(第19条)、有期雇用労働者無期雇用労働者との間の不合理な労働条件の相違の禁止(第20条)などが新設された。この改正法は平成25年(2013年)4月1日に施行されている。

法律の構成と主要内容

労働契約法は、第1章「総則」、第2章「労働契約の成立及び変更」、第3章「労働契約の継続及び終了」、第4章「期間の定めのある労働契約」、第5章「雑則」の5章、全19条で構成されている。

総則(第1条~第5条)

目的規定(第1条)
労働契約法第1条は、本法の目的を定めており、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的としている。

定義規定(第2条)
第2条では、労働契約法における「労働者」「使用者」「労働契約」の定義を定めている。労働者とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。使用者とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

労働契約の原則(第3条~第5条)
第3条から第5条では、労働契約の基本原則が定められている。第3条は、労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする対等原則、労働契約は労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする仕事と生活の調和への配慮、労働契約は労働者及び使用者が信義に従い誠実に権利を行使し、及び義務を履行すべき信義誠実原則、労働契約に付随する権利の濫用の禁止などを定めている。

第4条は、労働者及び使用者が労働契約の内容についてできる限り書面により確認するものとする労働契約内容の理解促進について定めている。

第5条は、使用者が労働者の安全への配慮をする義務、いわゆる安全配慮義務を定めている。

労働契約の成立及び変更(第6条~第13条)

労働契約の成立(第6条)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立するとされている。

労働契約の内容と就業規則の関係(第7条~第13条)
第7条は、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は就業規則で定める労働条件によるものとする、という就業規則の効力について定めている。

第8条は、労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができると定め、合意による労働条件の変更を原則としている。

第9条及び第10条は、就業規則による労働条件の不利益変更に関する規定である。第9条は、使用者は、労働者と合意することなく、就業規則の変更により、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとする原則を定めている。ただし第10条において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとし、例外的に不利益変更が認められる要件を定めている。

第11条及び第12条は、就業規則の変更によっても変更されない労働条件について定めている。

第13条は、就業規則で定める基準を下回る労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は就業規則で定める基準によるとしている。

労働契約の継続及び終了(第14条~第16条)

出向(第14条)
第14条は、使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は無効とすると定めている。

懲戒(第15条)
第15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とすると定めている。

解雇(第16条)
第16条は、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とすると定め、いわゆる解雇権濫用法理を明文化している。この規定は、長年の判例によって確立されてきた法理を法律に明記したものである。

期間の定めのある労働契約(第17条~第19条)

契約期間中の解雇(第17条)
第17条は、使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができないと定め、有期労働契約における解雇制限について規定している。また、使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならないとされている。

無期転換ルール(第18条)
第18条は、平成24年改正で新設された規定で、同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務を提供する期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立するというルールを定めている。これにより、通算5年を超えて反復更新された有期労働契約は、労働者の申込みによって無期労働契約に転換される。

雇止め法理の法定化(第19条)
第19条は、平成24年改正で新設された規定で、有期労働契約の雇止めに関する判例法理を明文化したものである。使用者が有期労働契約の更新を拒絶することが、①過去に反復更新され、雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる場合、または②労働者において有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる場合において、使用者が雇止めをすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めは認められず、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されたものとみなされる。

適用範囲と対象

労働契約法は、労働基準法第9条に定める労働者に適用される。具体的には、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者が対象となる。

したがって、正社員だけでなく、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトなど、雇用形態にかかわらず、使用従属関係にある労働者に適用される。ただし、業務委託契約などによる個人事業主やフリーランスなど、使用従属関係が認められない場合には適用されない。

また、国家公務員及び地方公務員には原則として適用されない。これらの公務員については、別途、国家公務員法や地方公務員法などの特別法が適用される。

労働基準法との関係

労働契約法と労働基準法は、いずれも労働者保護を目的とした法律であるが、その性格と規制手法が異なる。

労働基準法は、労働条件の最低基準を定め、使用者に対して強行的に遵守を義務付けるもので、違反には刑事罰が科される。例えば、労働時間、休日、年次有給休暇、賃金、労働災害補償解雇制限などについて具体的な最低基準を定めており、労働基準監督署による監督と刑事罰によって実効性が担保されている。

これに対し、労働契約法は、労働契約に関する民事的なルールを定めるもので、労働契約の成立、変更、終了という労働契約の各場面における基本的な原則やルールを明確化している。労働契約法違反については刑事罰は設けられておらず、違反があった場合には民事上の効力(無効、取消し、損害賠償等)が問題となる。

両法は相互補完的な関係にあり、労働基準法が定める最低基準を下回る労働条件は無効となり、労働契約法に基づいて労働契約の内容が判断される際にも、労働基準法の基準は重要な考慮要素となる。

有期労働契約に関する特別規定

平成24年改正により、有期労働契約に関する規定が大幅に整備された。これは、有期契約労働者の増加と、その雇用の不安定性や待遇格差の問題に対応するためのものである。

無期転換ルールの詳細

第18条に定める無期転換ルールは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約に転換するというルールである。

通算契約期間のカウントは、平成25年(2013年)4月1日以後に開始する有期労働契約が対象となる。契約期間が通算5年を超えるかどうかの判断においては、6か月以上の空白期間(クーリング期間)がある場合には、それ以前の契約期間は通算されない。

無期転換の申込権は、通算契約期間が5年を超える有期労働契約の契約期間中に発生し、労働者が使用者に対して無期転換の申込みをした時点で、使用者が承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立する。無期労働契約の労働条件は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となる。

雇止め法理の明文化

第19条は、いわゆる「雇止め法理」と呼ばれる判例法理を明文化したものである。最高裁判所の判例(東芝柳町工場事件・最高裁昭和49年7月22日判決、日立メディコ事件・最高裁昭和61年12月4日判決)によって形成されてきた法理を、法律の条文として明確化している。

この規定により、形式的には有期労働契約であっても、実質的に無期労働契約と異ならない状態にある場合や、更新に対する合理的な期待が認められる場合には、使用者は客観的に合理的な理由なく雇止めをすることができないこととなった。

不合理な労働条件の禁止

第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、その相違が期間の定めの有無に関連して不合理と認められるものであってはならないと定めている。これは、いわゆる「均衡待遇」の原則を定めたものである。

ただし、この規定は平成30年(2018年)に成立した「働き方改革関連法」により、パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の制定に伴い、同法に統合された。

判例法理の明文化

労働契約法の大きな特徴のひとつは、これまで判例によって形成されてきた法理を明文化していることである。

解雇権濫用法理

第16条に定める解雇権濫用法理は、最高裁判所の判例によって確立されてきた法理である。代表的な判例としては、日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日判決)や高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日判決)がある。

これらの判例は、使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるという法理を確立した。労働契約法第16条は、この判例法理を明文化したものである。

就業規則の不利益変更法理

第9条及び第10条に定める就業規則による労働条件の不利益変更に関する規定も、判例法理を明文化したものである。秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日判決)や第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日判決)などの判例によって形成されてきた法理が、条文として明確化されている。

出向・懲戒に関する権利濫用法理

第14条の出向命令権の濫用、第15条の懲戒権の濫用についても、判例法理を明文化したものである。使用者の人事権や懲戒権が無制限ではなく、権利濫用法理によって制約されるという考え方が、条文として明確にされている。

夜間経済における適用

風俗産業やナイトレジャー産業においても、労働契約法は適用される。キャバクラホストクラブガールズバーコンセプトカフェなどの接待飲食等営業においては、従業員が使用従属関係のもとで労働を提供している限り、労働契約法が適用される。

一方、デリヘルホテヘルソープランドなどの性風俗関連特殊営業においては、多くの場合、キャスト(サービス提供者)は業務委託契約などの形態で働いているとされ、労働者性が認められにくいため、労働契約法の適用対象とならない場合が多い。ただし、実態として使用従属関係が認められる場合には、形式的な契約形態にかかわらず、労働契約法が適用される可能性がある。

労働者性の判断

夜間経済産業における労働者性の判断においては、①業務遂行上の指揮監督の有無、②報酬の労務対償性、③事業者性の有無、④専属性の程度などが総合的に考慮される。例えば、出勤日や勤務時間が店舗によって指定され、業務内容について具体的な指示を受け、報酬が時間給やスライド制で定められている場合などには、労働者性が認められやすい。

逆に、完全自由出勤制で、報酬が完全歩合制であり、複数の店舗と契約している場合などには、個人事業主として扱われ、労働契約法の適用対象とならない可能性が高い。

有期雇用と無期転換

夜間経済産業においても、雇用形態が有期労働契約である場合には、第18条の無期転換ルールが適用される。契約社員アルバイトとして雇用されている従業員が、通算5年を超えて契約を更新している場合には、労働者からの申込みにより無期労働契約に転換する権利が発生する。

関連法制との関係

労働基準法との関係

前述のとおり、労働基準法が労働条件の最低基準を定める強行法規であるのに対し、労働契約法は労働契約の民事的ルールを定めるものである。両法は密接に関連しており、労働契約法の解釈適用にあたっては、労働基準法の規定が基礎となる。

労働基準法では、労働時間、休憩、休日、年次有給休暇、賃金、36協定みなし残業解雇制限などの具体的な最低基準が定められている。

労働組合法・労働関係調整法との関係

労働組合法及び労働関係調整法は、集団的労使関係を規律する法律であり、労働契約法は個別的労使関係を規律する法律である。労働組合法は労働者の団結権、団体交渉権、団体行動権を保障し、労働関係調整法は労働争議の調整手続を定めている。

労働契約法と労働組合法・労働関係調整法は、それぞれ異なる側面から労働者を保護する法制度を構成しており、労働三法と合わせて、包括的な労働者保護法制を形成している。

職業安定法との関係

職業安定法は、労働者の募集や職業紹介に関する規制を定める法律である。労働契約の締結に先立つ募集段階における規制を定めており、労働契約法とは異なる段階を規律している。

特に風俗男性求人高収入男性求人の分野においては、職業安定法による規制と労働契約法による保護が重層的に適用されることになる。

フリーランス保護新法との関係

令和5年(2023年)4月28日に成立したフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、フリーランスとして働く者を保護するための法律である。

労働契約法が労働者を対象とするのに対し、フリーランス保護新法は、労働者ではない個人事業主やフリーランスを対象としている。夜間経済産業においては、業務委託形態で働く者も多いため、労働者性が認められない場合にはフリーランス保護新法が適用される可能性がある。

インボイス制度との関係

インボイス制度は、消費税の仕入税額控除の方式であり、労働契約法とは直接的な関係はない。ただし、個人事業主として業務委託契約を締結している場合には、免税事業者課税事業者かによって、インボイス制度の影響を受ける。

労働契約法の適用対象となる労働者の場合には、使用者から賃金が支払われるため、インボイス制度の対象とはならない。

実務上の重要論点

労働者性の判断基準

労働契約法の適用を受けるためには、当該個人が「労働者」であることが前提となる。労働者性の判断については、昭和60年の労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」が参考とされている。

この報告では、①使用従属性(指揮監督下の労働、報酬の労務対償性)、②労働者性を補強する要素(事業者性の有無、専属性の程度)などが総合的に判断されるとしている。

就業規則の周知義務

労働契約法第7条は、合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合に、就業規則の効力を認めている。この「周知」の要件は、労働契約法の適用において重要な要素となる。

周知の方法としては、①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、②書面を労働者に交付すること、③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置することなどが労働基準法施行規則で定められている。

有期労働契約の無期転換に関する実務

無期転換ルールの適用にあたっては、通算契約期間の計算、クーリング期間の適用、無期転換後の労働条件などが実務上の重要論点となる。

特に、無期転換後の労働条件については、法律上は「別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一の労働条件」とされているが、使用者と労働者の間で別途合意することにより、労働条件を変更することも可能である。

雇止めの有効性判断

第19条に基づく雇止めの有効性判断においては、①過去の契約更新回数、②雇用の通算期間、③契約期間管理の状況、④雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無、⑤同様の地位にある他の労働者の雇止めの状況などが総合的に考慮される。

解雇の有効性判断

第16条に基づく解雇の有効性判断においては、①解雇事由の存在、②解雇事由の重大性、③労働者の情状、④使用者側の対応(注意・指導の有無、改善機会の付与など)、⑤解雇回避努力の有無などが総合的に判断される。

紛争解決制度

労働契約法違反に関する紛争が生じた場合、以下のような紛争解決制度を利用することができる。

個別労働紛争解決制度

都道府県労働局に設置されている総合労働相談コーナーでは、労働問題に関する情報提供・相談、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんなどが行われている。

労働審判制度

労働審判制度は、地方裁判所において、労働審判官(裁判官)1人と労働審判員2人で組織する労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理し、適宜調停を試み、調停による解決に至らない場合には審判を行うという制度である。

民事訴訟

労働契約に関する紛争については、地方裁判所又は簡易裁判所に民事訴訟を提起することができる。解雇無効確認訴訟、賃金請求訴訟、損害賠償請求訴訟などが代表的である。

主要判例

労働契約法の解釈適用にあたっては、以下のような重要判例が参考とされる。

解雇権濫用法理に関する判例

日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日判決)、高知放送事件(最高裁昭和52年1月31日判決)などが、解雇権濫用法理を確立した重要判例である。

就業規則の不利益変更に関する判例

秋北バス事件(最高裁昭和43年12月25日判決)、第四銀行事件(最高裁平成9年2月28日判決)、みちのく銀行事件(最高裁平成12年9月7日判決)などが、就業規則の不利益変更に関する重要判例である。

雇止め法理に関する判例

東芝柳町工場事件(最高裁昭和49年7月22日判決)、日立メディコ事件(最高裁昭和61年12月4日判決)が、雇止め法理を形成した重要判例である。

有期労働契約の無期転換に関する判例

無期転換ルールは平成24年改正で導入された比較的新しい制度であるため、最高裁判例は少ないが、下級審では様々な事案において無期転換ルールの適用に関する判断が示されている。

統計と現状

個別労働紛争の状況

厚生労働省の「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争相談件数は約28万件に上っている。このうち、解雇に関する相談が約3万件、労働条件の引下げに関する相談が約2万件などとなっており、労働契約法に関連する相談が多くを占めている。

無期転換の実施状況

厚生労働省の調査によれば、無期転換ルールの本格施行から数年が経過し、多くの企業で無期転換の申込みと承諾が行われている。ただし、一部の企業では、無期転換を避けるために契約期間を5年未満で雇止めするなどの事例も報告されており、無期転換ルールの趣旨に反する運用が問題となっている。

有期雇用労働者の状況

総務省統計局の労働力調査によれば、令和5年(2023年)平均の非正規雇用労働者数は約2,124万人で、雇用者全体の約36.9%を占めている。このうち、有期契約労働者の割合は高く、労働契約法の有期労働契約に関する規定の重要性が高まっている。

国際比較

欧州における労働契約法制

欧州連合(EU)においては、有期労働契約に関するEU指令(1999/70/EC)が採択されており、有期契約労働者の差別的取扱いの禁止や、有期労働契約の濫用防止措置などが定められている。

ドイツでは、パートタイム・有期契約法(Teilzeit- und Befristungsgesetz)により、有期労働契約の締結には客観的理由が必要とされている。フランスでは労働法典(Code du travail)において、有期労働契約は例外的なものとされ、原則として無期労働契約が基本形態とされている。

アジア諸国における労働契約法制

韓国では、期間制及び短時間勤労者保護等に関する法律により、2年を超えて有期労働契約を反復更新した場合には無期労働契約とみなされる規定がある。中国では労働契約法(2008年施行)により、労働契約に関する詳細な規定が設けられている。

日本の労働契約法は、判例法理の明文化という点で独自の特徴を持っており、諸外国の労働法制とは異なるアプローチをとっている。

今後の課題と展望

働き方の多様化への対応

近年、テレワークや副業・兼業、フリーランスなど、働き方の多様化が進んでいる。労働契約法は、伝統的な雇用関係を前提とした法制度であるため、こうした新しい働き方にどのように対応していくかが課題となっている。

プラットフォームワーカーの保護

デジタルプラットフォームを通じて仕事を受注する、いわゆるプラットフォームワーカーやギグワーカーの増加に伴い、これらの働き手をどのように保護するかが国際的にも課題となっている。労働者性の判断基準の見直しや、労働者以外の働き手に対する保護法制の整備などが検討課題となっている。

同一労働同一賃金の推進

パートタイム・有期雇用労働法の施行により、正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消が進められている。労働契約法第20条の規定は同法に統合されたが、引き続き同一労働同一賃金の実現に向けた取組みが重要となっている。

デジタル化への対応

労働契約の締結や変更における電子化、就業規則の電子的周知、労働条件明示の電子化など、労働関係のデジタル化が進んでいる。労働契約法においても、こうしたデジタル化に対応した解釈運用が求められている。

比較表

以下に、労働契約法と関連法制の比較表を示す。

項目労働契約法労働基準法労働組合法
制定年平成19年(2007年)昭和22年(1947年)昭和24年(1949年)
主な目的労働契約の民事ルールの明確化労働条件の最低基準の設定労働者の団結権等の保障
規律対象個別労働契約関係労働条件の最低基準集団的労使関係
違反の効果民事的効力(無効、損害賠償等)刑事罰(罰金、懲役等)不当労働行為の救済命令等
監督機関なし(民事紛争として裁判所)労働基準監督署労働委員会
適用労働者労働基準法第9条の労働者事業又は事務所に使用される労働者労働組合の組合員

雇用形態別の適用関係

以下に、主な雇用形態と労働契約法の適用関係を示す表を掲げる。

雇用形態労働者性労働契約法の適用無期転換ルール備考
正社員あり適用適用外(無期雇用のため)最も典型的な労働者
契約社員あり適用適用(5年超で無期転換権)有期雇用労働者
アルバイト・パートあり適用適用(5年超で無期転換権)有期雇用の場合
業務委託原則なし原則適用外適用外実態により労働者性が認められる場合あり
派遣労働者あり(派遣元との関係)適用(派遣元との関係)適用(派遣元との契約期間による)派遣元使用者との労働契約

関連分野の基礎知識

労働法の体系

日本の労働法は、個別的労働関係法と集団的労働関係法に大別される。個別的労働関係法には、労働基準法、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法、賃金の支払の確保等に関する法律などが含まれる。集団的労働関係法には、労働組合法労働関係調整法などが含まれる。

労働契約の要素

労働契約の基本的要素は、①労働者が使用者の指揮命令の下で労働すること、②使用者が労働の対価として賃金を支払うこと、③両者の合意によって成立することである。

就業規則の法的性質

就業規則は、使用者が事業場における労働条件や服務規律などを定めた規則集である。労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。

労働時間法制

労働基準法では、1日8時間、1週40時間の法定労働時間が定められている。これを超えて労働させる場合には、36協定の締結と届出、時間外労働割増賃金の支払いが必要となる。みなし残業制度を採用する場合にも、労働基準法の規制が適用される。

社会保険制度

労働者は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)及び労働保険(雇用保険、労災保険)の適用対象となる。適用要件を満たす労働者については、使用者は社会保険及び労働保険の加入手続を行う義務がある。

人材育成制度

企業における人材育成には、OJT(職場内訓練)とOFF-JT(職場外訓練)がある。労働契約法第5条の安全配慮義務の一環として、使用者には適切な教育訓練を実施する責務がある。

最低賃金制度

最低賃金法により、使用者は労働者に対し、最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。地域別最低賃金は都道府県ごとに定められており、毎年10月頃に改定される。

脚注・注釈・出典

  1. 労働契約法(平成19年法律第128号)は、衆議院及び参議院の審議を経て、平成19年11月28日に可決・成立し、同年12月5日に公布された。施行日は平成20年3月1日である。e-Gov法令検索 労働契約法
  2. 厚生労働省「労働契約法のあらまし」(令和5年版)によれば、労働契約法は個別労働関係における基本的な民事ルールを明確化することを目的としている。厚生労働省 労働契約法について
  3. 労働政策審議会労働条件分科会「今後の労働契約法制の在り方について(報告)」(平成18年12月27日)では、労働契約に関する紛争の増加と、判例法理の明文化の必要性が指摘されている。厚生労働省 労働政策審議会
  4. 平成24年改正労働契約法(平成24年法律第56号)は、平成24年8月10日に公布され、平成25年4月1日に施行された。この改正により、第18条から第20条が新設された。厚生労働省 有期契約労働者の無期転換ポータルサイト
  5. 厚生労働省「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は年間約118万件に上っている。厚生労働省 個別労働紛争解決制度
  6. 最高裁判所判例として、日本食塩製造事件(最高裁昭和50年4月25日第二小法廷判決、民集29巻4号456頁)、東芝柳町工場事件(最高裁昭和49年7月22日第一小法廷判決、民集28巻5号927頁)などが重要である。裁判所 判例検索システム
  7. 厚生労働省労働基準局「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭和60年労働基準法研究会報告)は、労働者性の判断基準を示している。厚生労働省
  8. 総務省統計局「労働力調査」(令和5年平均)によれば、非正規雇用労働者数は約2,124万人で、雇用者全体の約36.9%を占めている。総務省統計局 労働力調査

関連項目

外部リンク

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