年次有給休暇(ねんじゆうきゅうきゅうか、英語: Annual Paid Leave)とは、労働者が一定の要件を満たした場合に、休暇を取得した日について通常の賃金が支払われる休暇制度である。一般に「有給休暇」「有休」「年休」などと略称される。日本においては労働基準法第39条において規定されており、すべての労働者に保障された権利である。国際労働機関(ILO)の条約に基づき、世界各国で制度化されている労働者の基本的権利の一つである。
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概要
年次有給休暇は、心身のリフレッシュと生活の充実を図ることを目的として、労働者が自由に利用できる有給の休暇である。労働基準法第39条に基づき、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、使用者は年次有給休暇を付与しなければならない。
この制度は、業種や業態、企業規模に関わらず適用され、正社員だけでなく、契約社員やアルバイトといった雇用形態を問わず、要件を満たすすべての労働者に付与される。年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、使用者は原則として労働者が指定した時季に休暇を与えなければならない。
2019年4月からは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、使用者が年5日の時季を指定して取得させることが義務化された。これは、「働き方改革関連法」の一環として施行された措置であり、年次有給休暇の確実な取得を促進することを目的としている。
制度の沿革
年次有給休暇の概念は、19世紀末のヨーロッパにおいて労働運動の高まりとともに発展してきた。日本における年次有給休暇制度は、1947年(昭和22年)に制定された労働基準法によって初めて法定化された。これは、戦後の民主化政策の一環として労働者の権利保障を目的としたものである。
国際的には、1936年に国際労働機関(ILO)が第52号条約「年次有給休暇に関する条約」を採択し、1年以上継続して働く労働者に対して最低6労働日の有給休暇を与えることを定めた。その後、1970年6月24日の第54回総会において、ILO第132号条約「年次有給休暇に関する条約(1970年の改正条約)」が採択され、3労働週以上の年次有給休暇を保障することが定められた。
日本では、制度発足当初から複数回の法改正を経て、労働者の権利保護が強化されてきた。特に2019年4月施行の改正では、年5日の時季指定義務が新設され、実効性の確保が図られている。
付与要件
発生条件
年次有給休暇が発生するためには、以下の2つの要件を満たす必要がある。
継続勤務要件
雇入れの日から起算して6か月間継続して勤務していることが必要である。「継続勤務」とは、事業場における在籍期間を意味し、勤務の実態に即して実質的に判断される。たとえば、定年退職者を嘱託社員として再雇用した場合や、有期労働契約が更新された場合なども、実態として労働関係が継続していれば継続勤務として扱われる。
出勤率要件
全労働日の8割以上出勤していることが必要である。出勤率は「出勤日数÷全労働日」で計算される。全労働日とは、就業規則等で定められた所定労働日から、使用者の責に帰すべき休業日を除いた日数を指す。法定休日や法定外休日は全労働日には含まれない。
出勤率の算定における特例
出勤率の計算においては、以下の期間や日数について特別な取扱いがなされる。
業務上の負傷や疾病による休業期間、産前産後休業、育児休業、介護休業などの法律上認められた休業期間は、出勤したものとみなされる。また、年次有給休暇を取得した日も出勤日として扱われる。一方、使用者の責に帰すべき休業日や、ストライキなどの正当な争議行為の日は、全労働日から除外される。
付与日数
通常の労働者
週所定労働時間が30時間以上、または週所定労働日数が5日以上の労働者(一般にフルタイム労働者と呼ばれる)に対しては、継続勤務年数に応じて以下の日数の年次有給休暇が付与される。
| 継続勤務年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
最初の付与は雇入れの日から6か月経過後に10日であり、その後1年ごとに日数が増加していき、6年6か月経過後には年20日が上限となる。
比例付与の対象労働者
週所定労働時間が30時間未満かつ週所定労働日数が4日以下の労働者については、所定労働日数に比例した日数が付与される。これを「比例付与」という。主にパートタイム労働者や短時間勤務の労働者が該当する。
| 週所定 労働日数 | 年間所定 労働日数 | 継続勤務年数 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 | ||
| 4日 | 169日~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
| 3日 | 121日~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
| 2日 | 73日~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
| 1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
週以外の期間によって労働日数が定められている場合は、年間の所定労働日数に応じて判断される。
年次有給休暇の取得
時季指定権と時季変更権
年次有給休暇の取得日は、原則として労働者が自由に指定できる(時季指定権)。労働者が取得時季を指定した場合、使用者は原則としてその時季に休暇を与えなければならない。使用者が労働者の指定した時季に年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、使用者は他の時季に変更することができる(時季変更権)。
「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、単に業務が多忙であるという理由だけでは認められず、同時期に多数の労働者が休暇を申請した場合や、代替要員の確保が客観的に困難な場合など、具体的かつ客観的な事情が必要とされる。判例においても、時季変更権の行使は厳格に判断される傾向にある。
年5日の時季指定義務
2019年4月1日から施行された改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、使用者が年5日について時季を指定して取得させることが義務付けられた。これは、年次有給休暇の取得率が低い状況を改善し、労働者の心身の健康保持と仕事と生活の調和を図ることを目的としている。
ただし、労働者が自ら請求して5日以上取得した場合や、後述する計画的付与により5日以上取得した場合は、使用者による時季指定は不要である。使用者は時季指定に当たって、労働者の意見を聴取し、できる限りその希望に沿った指定を行うよう努めなければならない。
違反した場合、使用者には労働者1人につき30万円以下の罰金が科される(労働基準法第120条)。
年次有給休暇管理簿
使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、基準日、付与日数、取得日数等を記録して3年間保存しなければならない。これにより、適切な年次有給休暇の管理と時季指定義務の履行確保が図られている。
取得時の賃金
年次有給休暇を取得した日について支払われる賃金は、就業規則等に定めることにより、以下の3つの方法から選択できる。
通常の賃金
所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う方法。最も一般的に採用されている方法であり、通常勤務した場合と同額の賃金が支払われる。
平均賃金
労働基準法第12条に定める平均賃金を支払う方法。平均賃金は、算定事由発生日以前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除して計算される。
標準報酬日額
健康保険法に定める標準報酬月額の30分の1に相当する金額を支払う方法。この方法を採用する場合は、労使協定の締結が必要である。
なお、2026年4月に予定されている労働基準法改正においては、有給休暇取得時の賃金算定方法が「通常の賃金」に原則一本化される方向で検討が進められている。
時効と繰越
年次有給休暇の請求権は、労働基準法第115条により、発生の日から2年間で時効により消滅する。したがって、当該年度に取得しなかった年次有給休暇は、翌年度まで繰り越すことができるが、繰り越した年次有給休暇も付与日から2年を経過すると消滅する。
たとえば、2024年4月1日に10日付与された年次有給休暇を1日も取得しなかった場合、2025年4月1日に新たに11日が付与されて合計21日となる。しかし、2026年4月1日になると、2024年4月1日付与分の未取得分は時効により消滅する。理論上の最大保有日数は、年20日付与される労働者の場合で40日(当年度分20日+前年度繰越分20日)となる。
特別な取得形態
計画的付与
年次有給休暇の付与日数のうち5日を超える部分については、労使協定を締結することにより、計画的に休暇取得日を割り振ることができる(計画的付与)。これにより、事業場全体の休業、部署やグループごとの交代制付与、個人別の計画的付与などが可能となり、労使双方にとって計画的な運営が実現できる。
ただし、労働者が自由に取得できる年次有給休暇を最低5日は確保しなければならないため、たとえば年10日付与されている労働者の場合は、計画的付与の対象とできるのは5日分までとなる。
時間単位年休
労使協定を締結することにより、年5日を上限として、時間単位で年次有給休暇を取得することができる(時間単位年休)。これにより、半日や数時間の用事のために1日分の年次有給休暇を使わずに済み、労働者にとって利便性が高まる。
時間単位年休は、労働者が時間単位での取得を請求した場合に付与されるものであり、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められていない。
半日単位の取得
法律上の明文規定はないが、労働者の請求に基づき、使用者が同意した場合には、半日単位での取得も可能である。半日単位の取得については、労使の合意により柔軟に運用されている。
罰則
年次有給休暇に関する労働基準法の規定に違反した場合、以下の罰則が定められている。
年次有給休暇を付与しない場合
労働基準法第39条第1項から第4項までの規定に違反して年次有給休暇を付与しなかった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる(同法第119条)。
年5日の時季指定義務違反
年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して年5日の時季指定を行わなかった場合、労働者1人につき30万円以下の罰金に処せられる(同法第120条)。この罰則は、対象となる労働者ごとに成立するため、複数の労働者について違反があれば、それぞれについて罰則が科される可能性がある。
年次有給休暇管理簿の未作成・未保存
年次有給休暇管理簿を作成せず、または3年間保存しなかった場合、30万円以下の罰金に処せられる(同法第120条)。
不利益取扱いの禁止
使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額、精皆勤手当や賞与の算定における欠勤扱い、昇給・昇格における不利益な評価など、その労働者に対して不利益な取扱いをしないようにしなければならない(労働基準法附則第136条)。
判例においては、年次有給休暇を取得した日を欠勤として扱い皆勤手当を不支給とする取扱いについて、その皆勤手当の金額や算定方法によっては、年次有給休暇の取得を抑制する効果が大きく、公序良俗に反して無効とされる場合があることが示されている。ただし、労働基準法附則第136条は訓示規定であるとされ、直ちに私法上の効果を否定するものではないとする判断もあり、不利益取扱いの程度と年次有給休暇取得の抑制効果を総合的に判断される。
各雇用形態における適用
業務委託契約
業務委託契約により働く者は、雇用関係にある労働者ではないため、原則として労働基準法の適用がなく、年次有給休暇の付与義務も発生しない。ただし、契約形態が業務委託であっても、実態として使用従属関係が認められる場合は、労働者性が認められ、年次有給休暇の付与義務が生じる可能性がある。
有期雇用労働者
有期雇用労働者であっても、継続勤務要件と出勤率要件を満たせば年次有給休暇が付与される。有期労働契約が更新されて通算の勤務期間が6か月以上となった場合、実質的に継続勤務と判断されるため、年次有給休暇が発生する。
国際比較
ILO第132号条約では、年次有給休暇について「1年間の勤務につき3労働週」を下回らないものとすることが定められている。日本はこの条約を批准していないが、労働基準法において独自の基準を設けている。
諸外国と比較すると、日本の年次有給休暇の法定日数は必ずしも少なくないが、実際の取得率は長年低迷してきた。OECD加盟国やヨーロッパ諸国では、年次有給休暇の完全取得が一般的であり、取得率は80%から100%に達する国も多い。一方、日本の取得率は2022年時点で約62%にとどまっており、国際的にみて低い水準にある。こうした状況を改善するため、2019年の法改正により年5日の時季指定義務が導入された。
風俗産業等における実務
風俗産業やホストクラブ、キャバクラなどのナイトレジャー産業においても、雇用契約により働く従業員には労働基準法が適用されるため、年次有給休暇の付与義務がある。ただし、実態として業務委託契約や個人事業主として働いている場合は、労働者性が認められない限り、年次有給休暇の付与義務は発生しない。
風俗店のボーイやドライバー、店舗スタッフなど、雇用契約で働く従業員については、付与要件を満たせば年次有給休暇を付与しなければならない。風俗男性求人や高収入男性求人を扱う求人情報サイトにおいても、雇用形態が雇用契約である場合は、年次有給休暇の付与を含む労働条件が明示されることが望ましい。
また、労働基準監督署は、業種を問わず労働基準法違反の取締りを行っており、年次有給休暇に関する違反についても監督指導の対象となる。
関連分野の基礎知識
労働時間制度との関係
年次有給休暇は、36協定による時間外労働やみなし残業とは独立した制度である。年次有給休暇を取得した日は、労働義務が免除されるため、労働時間には算入されず、時間外労働の計算においても考慮されない。
社会保険との関係
年次有給休暇を取得しても、社会保険の加入資格には影響しない。ただし、有給休暇取得日の賃金について標準報酬日額を用いる方式を採用する場合は、健康保険の標準報酬月額を基礎とするため、社会保険との関連が生じる。
労働災害補償との関係
労働災害補償による休業期間は、出勤率の計算において出勤したものとみなされる。また、業務上の負傷や疾病による休業中であっても、要件を満たせば年次有給休暇は発生する。
解雇制限との関係
解雇制限期間中であっても、年次有給休暇の取得は可能である。ただし、解雇予告期間中に年次有給休暇を取得した場合の解雇の効力については、判例により一定の制限がある。
その他の休暇制度との違い
年次有給休暇は、法定の休暇であり、使用者は要件を満たした労働者に対して必ず付与しなければならない。これに対して、慶弔休暇、夏季休暇、リフレッシュ休暇などは、法律上の義務ではなく、使用者が任意に設ける制度である。
脚注・注釈・出典
- 厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」リーフレット https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-3.pdf
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第39条 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
- ILO第132号条約「年次有給休暇に関する条約(1970年の改正条約)」 https://www.ilo.org/ja/resource/1970年の有給休暇条約(改正)(第132号)
- 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得」 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
- 労働基準法第115条(時効) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
- 労働基準法第119条・第120条(罰則) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
- 労働基準法附則第136条(不利益取扱いの禁止) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
- 厚生労働省「データブック国際労働比較2024」第6章 労働時間・労働時間制度 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2024/documents/d2024_ch6.pdf
- Expedia「有給休暇の国際比較調査2022」 https://www.expedia.co.jp/stories/wp-content/uploads/2023/04/Expedia_Vacation-Deprivation-2022-1.pdf
- 最高裁判所判例 白石営林署事件(最判昭48.3.2) 労働判例171号16頁
- 厚生労働省「わかりやすい解説 年5日の年次有給休暇の確実な取得」 https://wwwtb.mlit.go.jp/kinki/content/000094019.pdf
- 労働基準法施行規則第24条の7(年次有給休暇管理簿) https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322M40000100023
- 厚生労働省「確かめよう労働条件 年次有給休暇」裁判例 https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/yukyu/yukyu.html
関連項目
- 労働基準法
- 労働三法
- 労働契約法
- 労働組合法
- 労働関係調整法
- 36協定(サブロク協定)
- 労働災害補償
- 解雇制限
- 社会保険
- 労働基準監督署(労基署)
- 正社員
- 契約社員
- アルバイト
- 有期雇用労働者
- 無期雇用労働者
- 業務委託








