労働関係調整法

労働関係調整法とは、労働者と使用者との間に発生する労働争議の予防と解決を目的とした日本の法律である。1946年(昭和21年)に制定され、労働基準法、労働組合法とともに労働三法の一つを構成する。本法は、労働争議が経済の正常な発展を阻害し、社会全体に影響を及ぼすことを防ぐため、斡旋、調停、仲裁といった調整手続を定め、労働関係の公正な調整を図ることを基本理念としている。この法律の適用範囲は広く、公益事業における争議行為の制限など、社会的影響の大きい分野においても特別な規制を設けている点に特徴がある。労働三法の中でも、特に集団的労使関係の調整に重点を置いた法制度として位置づけられる。

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概要

労働関係調整法は、1946年(昭和21年)9月27日に法律第25号として公布され、同年10月1日に施行された。第二次世界大戦後の日本において、労働運動の活発化に伴う労働争議の頻発を背景として制定された経緯を持つ。本法は全6章49条から構成され、労働争議の定義、調整手続の種類と方法、公益事業における特別規定などを包括的に定めている。

本法における「労働争議」とは、労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態またはそのおそれがある状態をいう。労働関係の当事者とは、労働者およびその団体(労働組合)と使用者およびその団体(使用者団体)を指す。

調整手続には、斡旋、調停、仲裁の三つの方法が規定されており、いずれも労働委員会が主体となって実施する。これらの手続は、当事者の自主的な解決を促進することを基本としつつ、公的機関が介入することで公正な解決を図る仕組みとなっている。

本法は労働基準法労働組合法と並んで労働法制の根幹を成すものであり、これらと相互に補完しながら労働者の権利保護と労働関係の安定を実現している。特に労働組合法が団体交渉権や争議権といった労働者の権利を保障するのに対し、労働関係調整法はその権利行使の結果生じる紛争の調整という実務的側面を担う。

立法の背景と歴史

戦後労働改革と制定経緯

労働関係調整法の制定は、第二次世界大戦後の日本における民主化政策の一環として位置づけられる。連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指導のもと、労働民主化を進める過程で、1945年(昭和20年)12月に労働組合法が制定され、労働者の団結権、団体交渉権、争議権が保障された。しかし、これらの権利の行使に伴い労働争議が急増し、その調整手段の整備が急務となった。

1946年(昭和21年)には、戦前から存在した工場法などの労働保護法制を抜本的に改革し、労働基準法の制定作業も進められていた。こうした中で、労働争議の平和的解決を図る制度的枠組みとして労働関係調整法が起草された。本法の制定により、労働基準法、労働組合法とあわせて労働三法の体系が整備された。

主要な改正

労働関係調整法は制定以来、社会経済情勢の変化に応じて幾度かの改正を経ている。主要な改正としては、公益事業の範囲の見直し、労働委員会の組織と権限の変更、調整手続の合理化などが挙げられる。特に公益事業における争議行為の規制については、電力、ガス、水道、医療といった国民生活に直結するサービスの重要性を踏まえ、段階的に整備されてきた。

近年では、労働関係の多様化や非正規雇用の増加といった労働市場の変化に対応するため、個別労働紛争への対応や、労働審判制度の創設(2004年)など、関連する制度改革も進められている。ただし、労働関係調整法自体は集団的労使関係の調整に特化した法制度として、その基本的枠組みを維持している。

法の目的と基本原則

法の目的

労働関係調整法第1条は、本法の目的を「労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もつて経済の興隆に寄与すること」と定めている。この規定から、本法が労働者保護のみならず、産業平和と経済発展という社会全体の利益をも目的としていることが読み取れる。

労働争議は労働者の権利行使として正当なものであるが、その長期化や過激化は当事者双方に損害をもたらすだけでなく、社会経済全体に悪影響を及ぼす可能性がある。労働関係調整法は、このような弊害を最小限に抑えつつ、労働者と使用者の利益調整を公正に行うための手続と基準を提供する。

基本原則

本法の運用における基本原則として、以下の点が重視される。

第一に、当事者の自主性の尊重である。労働関係調整法の各種手続は、あくまで当事者による自主的な解決を支援するものであり、調整機関が一方的に解決策を押しつけるものではない。特に斡旋や調停の手続では、当事者の合意形成を促進することに主眼が置かれる。

第二に、公正中立性の確保である。調整を担当する労働委員会は、公益委員、労働者委員、使用者委員の三者構成とされ、いずれの立場にも偏らない公正な判断を行う仕組みが採られている。

第三に、迅速性の重視である。労働争議が長期化すれば、当事者双方の損害が拡大するだけでなく、社会経済への影響も深刻化する。そのため、本法は各種手続の期限を明確に定め、迅速な解決を図ることを求めている。

労働争議の定義と類型

労働争議の定義

労働関係調整法第6条は、労働争議を「労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態又は発生するおそれがある状態」と定義している。この定義における重要な要素は、主張の不一致と争議行為の二つである。

主張の不一致とは、労働条件、労働契約の内容、労働組合の運営、団体交渉の方法など、労働関係に関わる事項について当事者間で見解の相違がある状態を指す。争議行為とは、同盟罷業(ストライキ)、怠業(サボタージュ)、作業所閉鎖(ロックアウト)その他労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為及びこれに対抗する行為であって、業務の正常な運営を阻害するものをいう。

争議行為の類型

争議行為は、その主体や態様によって幾つかの類型に分類される。

労働者側による争議行為の代表的なものは同盟罷業(ストライキ)である。これは労働者が集団で労務の提供を拒否することにより、使用者に経済的圧力を加える行為である。その他、怠業(作業能率を意図的に低下させる)、ピケッティング(就労しようとする労働者や物資の搬入を説得や実力で阻止する)、ボイコット(製品や企業に対する不買運動)などがある。

使用者側による争議行為としては、作業所閉鎖(ロックアウト)が挙げられる。これは使用者が施設を閉鎖し、労働者の就労を拒否する行為である。ロックアウトは、労働者側の争議行為に対抗する防衛的手段として認められるが、その正当性は厳格に判断される。

争議行為は正当なものである限り、刑事免責(刑法上の責任を問われない)および民事免責(損害賠償責任を負わない)が認められる。ただし、暴力行為を伴う場合や、本法に違反する態様で行われる場合には、その正当性が否定される。

調整手続の種類と内容

労働関係調整法は、労働争議の調整手続として斡旋、調停、仲裁の三つの方法を規定している。これらは労働委員会が実施する公的な紛争解決手続であり、それぞれ異なる特徴と手続構造を持つ。

斡旋

斡旋は最も簡易な調整手続であり、労働委員会が指名する斡旋員が当事者間の自主的な話し合いを促進し、争議の解決を図る方法である。斡旋は当事者の一方または双方の申請により、あるいは労働委員会の職権により開始される。

斡旋員は労働委員会の委員または特別の学識経験を有する者の中から指名され、通常1名ないし3名で構成される。斡旋員は当事者双方から事情を聴取し、解決案を提示することができるが、その案に法的拘束力はなく、当事者が受諾するか否かは自由である。

斡旋の特徴は、手続が簡易・迅速であり、非公開で行われるため、当事者が柔軟に対応できる点にある。ただし、拘束力がないため、当事者間に大きな対立がある場合には解決に至らないこともある。斡旋が不調に終わった場合、当事者は調停や仲裁の申請を行うことができる。

調停

調停は、労働委員会が指名する調停委員会が当事者の主張を調整し、調停案を作成して解決を図る手続である。調停は当事者の一方または双方の申請により、あるいは労働委員会の職権により開始される。

調停委員会は、公益委員、労働者委員、使用者委員の三者によって構成され、通常3名の委員で組織される。調停委員会は当事者双方から事情および意見を聴取し、必要に応じて関係者の出頭や資料の提出を求めることができる。十分な審理を経た後、調停委員会は調停案を作成し、当事者に受諾を勧告する。

調停案に法的拘束力はないが、労働委員会という公的機関が作成した案であることから、事実上の強い説得力を持つ。当事者が調停案を受諾した場合、その内容は労働協約と同一の効力を有する。調停が不調に終わった場合、労働委員会はその旨を公表することができる。

仲裁

仲裁は、仲裁委員会が当事者に代わって争議の解決内容を決定し、その決定に法的拘束力を持たせる手続である。仲裁は当事者双方の合意による申請があった場合、または緊急調整の決定があった場合に開始される。

仲裁委員会は調停委員会と同様に三者構成とされ、通常3名の委員で組織される。仲裁委員会は十分な審理を経た後、仲裁裁定を下す。この仲裁裁定は、労働協約と同一の効力を有し、当事者双方を法的に拘束する。

仲裁の特徴は、第三者による最終的な解決が得られる点にあるが、当事者の自主性が制約されるため、当事者双方の合意がある場合または公益上特に必要な場合に限定して用いられる。仲裁裁定に不服がある場合でも、原則として争議行為を行うことはできない。

調整手続開始要件担当機関拘束力特徴
斡旋当事者申請または職権斡旋員(1〜3名)なし簡易・迅速・非公開
調停当事者申請または職権調停委員会(三者構成)なし(受諾時は労働協約と同一効力)公的機関による調整案提示
仲裁当事者双方の合意または緊急調整決定仲裁委員会(三者構成)あり(労働協約と同一効力)法的拘束力のある裁定

労働委員会の組織と権限

労働委員会の構成

労働関係調整法に基づく調整手続を実施する機関として、労働委員会が設置されている。労働委員会には、中央労働委員会(厚生労働省に設置)と都道府県労働委員会がある。

労働委員会は、公益委員、労働者委員、使用者委員の三者で構成される。公益委員は労働関係に関する公正な判断ができる学識経験者から任命され、労働者委員は労働組合の推薦に基づき、使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて任命される。この三者構成により、いずれの立場にも偏らない公正な判断が可能となる。

中央労働委員会は、全国的に重要な争議や、複数の都道府県にまたがる争議などを扱う。都道府県労働委員会は、その区域内の争議を扱う。当事者は、争議の性質や規模に応じて、いずれの労働委員会に対しても調整の申請を行うことができる。

労働委員会の権限

労働委員会は、労働争議の調整のため、以下のような権限を有する。

まず、当事者、参考人、学識経験者の出頭を求め、その意見を聴くことができる。また、当事者に対して必要な資料や報告の提出を求めることができる。これらの権限により、労働委員会は争議の実態を正確に把握し、適切な調整案を作成することが可能となる。

さらに、労働委員会は調整手続の過程で知り得た秘密を保持する義務を負う。これにより、当事者は安心して率直な意見交換を行うことができる。労働委員会の委員や事務局職員が秘密保持義務に違反した場合、刑事罰が科される。

労働委員会はまた、不当労働行為の審査という重要な権限を持つ。不当労働行為とは、使用者が労働者の団結権や団体交渉権を侵害する行為であり、労働組合法により禁止されている。労働委員会は不当労働行為の救済申立てを審査し、救済命令を発することができる。

公益事業における特別規定

公益事業の範囲

労働関係調整法は、国民生活に重大な影響を及ぼす可能性のある特定の事業を「公益事業」として指定し、これらの事業における労働争議について特別の規制を設けている。

公益事業として指定されているのは、以下の9事業である。運輸事業、郵便・信書便事業、電気通信事業、水道事業、電気事業、ガス事業、医療事業、公衆衛生事業、および指定公共機関の業務。これらの事業は、その停止が国民の日常生活に直接かつ重大な影響を及ぼすという共通の特徴を持つ。

公益事業の指定は、社会経済情勢の変化に応じて見直されてきた。例えば、郵便事業については、郵政民営化後も公益事業としての性格が維持されている。また、医療や公衆衛生といった分野は、国民の生命健康に直結するため、特に厳格な規制が適用される。

争議行為の予告義務

公益事業の労働者またはその労働組合が争議行為をしようとする場合、少なくとも10日前までに労働委員会および厚生労働大臣または都道府県知事に対して予告しなければならない。この予告義務は、公益事業における争議行為が社会に及ぼす影響を考慮し、事前に調整の機会を確保するために設けられたものである。

予告を受けた労働委員会は、直ちに調整手続の開始を検討し、必要に応じて職権で斡旋や調停を行う。予告期間中に調整が成立すれば、争議行為を回避できる可能性が高まる。

予告義務に違反して争議行為を行った場合、その争議行為は違法となり、労働組合の幹部や参加者に対して刑事罰が科される可能性がある。ただし、予告義務違反であっても、争議行為そのものの正当性が全面的に否定されるわけではなく、個別の事情を考慮して判断される。

緊急調整

公益事業における争議が特に国民経済の運行を著しく阻害し、または国民の日常生活を著しく危くする場合、内閣総理大臣は緊急調整の決定を行うことができる。緊急調整が決定されると、50日間にわたり争議行為が禁止され、その期間中に労働委員会による仲裁が実施される。

緊急調整は極めて強力な措置であり、労働者の争議権を大幅に制約するため、その発動は慎重に判断される。過去の事例では、石炭産業における長期ストライキや、電力会社のストライキなどに対して緊急調整が発動されたことがある。

緊急調整期間中の争議行為は違法となり、これに違反した者には刑事罰が科される。緊急調整によって行われる仲裁の裁定は、当事者を法的に拘束し、労働協約と同一の効力を持つ。

公益事業の種類具体例規制内容
運輸事業鉄道、バス、航空、船舶争議行為の10日前予告、緊急調整対象
郵便・信書便事業日本郵便、信書便事業者争議行為の10日前予告、緊急調整対象
電気通信事業通信キャリア、電話サービス争議行為の10日前予告、緊急調整対象
水道事業上水道、工業用水道争議行為の10日前予告、緊急調整対象
電気事業電力会社、発電・送電事業争議行為の10日前予告、緊急調整対象
ガス事業都市ガス供給事業争議行為の10日前予告、緊急調整対象
医療事業病院、診療所争議行為の10日前予告、緊急調整対象
公衆衛生事業廃棄物処理、火葬場争議行為の10日前予告、緊急調整対象

労働関係調整法と他の労働法制との関係

労働三法の体系における位置づけ

労働関係調整法は、労働基準法労働組合法とともに労働三法を構成する。これらの法律は、それぞれ異なる役割を担いながら、総体として労働者の権利保護と労働関係の安定を実現している。

労働基準法は、労働時間、休日、賃金など、個々の労働者と使用者の間の労働条件に関する最低基準を定める。これは個別的労働関係の規制である。労働組合法は、労働者の団結権、団体交渉権、争議権を保障し、不当労働行為を禁止する。これは集団的労働関係における労働者の権利を定めるものである。

労働関係調整法は、労働組合法によって保障された権利の行使に伴って生じる労働争議を、どのように調整・解決するかという手続面を規定する。つまり、労働組合法が「権利」を定め、労働関係調整法が「手続」を定めるという補完関係にある。

他の労働関連法制との関連

労働関係調整法は、労働三法以外の労働関連法制とも密接に関連している。

労働契約法は、個別の労働契約の成立、変更、終了に関するルールを定めるものであり、個別労働紛争の解決に重点を置く。これに対し、労働関係調整法は集団的労使紛争を対象とするため、適用場面が異なる。ただし、集団的争議の背景に個別契約上の問題がある場合、両法が関連して適用されることもある。

職業安定法は、労働者の募集や職業紹介に関する規制を定めるものであり、労働市場の適正な機能を確保する。労働争議の解決によって雇用が維持されることは、労働市場の安定にも寄与する点で、両法は間接的に関連する。

また、労働安全衛生法や最低賃金法といった労働条件に関する法制も、労働争議の原因となりうる事項を規制するものであり、労働関係調整法の適用に際して考慮される場合がある。

風俗産業における適用

労働関係調整法は、業種を問わず労働者と使用者の関係が存在するあらゆる事業に適用される。したがって、風俗産業においても、従業員が労働者として認められる限り、本法の適用を受ける。

キャバクラホストクラブなどの接待飲食業、ソープランドなどの性風俗関連特殊営業においては、労働者性の判断が複雑な場合がある。これらの業種では、業務委託契約や個人事業主としての扱いが多く見られるが、実態として使用従属関係が認められる場合には労働者として扱われ、労働関係調整法の保護を受けることができる。

風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、風俗営業の規制を目的とする法律であり、労働関係調整法とは直接の関連はない。しかし、風営法による営業規制が労働条件に影響を及ぼし、それが労働争議の原因となることはあり得る。

現代的課題と今後の展望

非正規雇用と労働争議

近年、アルバイト契約社員、派遣労働者といった非正規雇用の増加が顕著である。これらの労働者は雇用が不安定であり、労働組合への加入率も低いため、集団的な労働争議よりも個別的な労働紛争が多く発生する傾向にある。

労働関係調整法は集団的労使紛争を主な対象とするため、こうした個別紛争には直接対応しにくいという課題がある。個別労働紛争については、労働審判制度や労働局によるあっせん制度など、別の紛争解決手段が整備されているが、集団的労働争議との境界が曖昧な事例も増加している。

非正規雇用労働者が労働組合を組織し、集団的に権利を主張するケースも見られるようになっており、こうした新しい形態の労働運動に対して、労働関係調整法がどのように機能するかが注目される。

労働委員会の機能と課題

労働委員会は、労働争議の調整と不当労働行為の救済という二つの重要な役割を担っている。しかし、近年では労働争議の件数が減少傾向にある一方、不当労働行為事件の処理に多くの時間を要するようになっている。

労働委員会の審査手続の迅速化や、専門性の向上が課題として指摘されている。特に、複雑化・多様化する労働問題に対応するため、委員や事務局職員の専門的知識の充実が求められている。

また、労働委員会の認知度が必ずしも高くないという問題もある。労働者や使用者が労働委員会の存在や機能を十分に理解していないため、紛争が深刻化してから初めて労働委員会に持ち込まれるケースが少なくない。広報活動の充実や、アクセスの容易化が今後の課題である。

デジタル化と労働争議

デジタル技術の進展により、テレワークやギグワークといった新しい働き方が普及している。これらの働き方では、労働者と使用者の関係が従来とは異なる形態をとることが多く、労働者性の判断や労働組合の組織化が困難になる場合がある。

オンラインプラットフォームを通じた労働では、使用者が明確でない場合や、労働者が多数の使用者と短期的な関係を持つ場合があり、集団的労使関係の形成が難しい。こうした状況において、労働関係調整法がどのように適用されるべきかは、今後の重要な論点となる。

また、SNSやオンライン会議システムを活用した労働組合の活動や争議行為の新しい形態も出現しており、これらに対する法的評価や調整手続のあり方についても検討が必要である。

国際比較と今後の方向性

労働争議の調整制度は各国で異なる仕組みを採用している。アメリカでは全国労働関係委員会(NLRB)が、イギリスでは労働審判所(Employment Tribunal)が、それぞれ労働紛争の解決に関与している。ドイツでは労働裁判所制度が発達しており、日本とは異なる紛争解決の枠組みが存在する。

国際比較の観点から、日本の労働関係調整制度は、行政機関である労働委員会が調整機能を担う点に特徴がある。この仕組みは、当事者の自主的解決を重視しつつ、公正な調整を実現するという日本的な労使関係の特質を反映している。

今後、グローバル化の進展により、国境を越えた労働争議や、外国企業における労働問題が増加する可能性がある。こうした状況に対応するため、国際的な労働基準や紛争解決制度との整合性を図ることも重要な課題となる。

関連分野の基礎知識

団体交渉と労働協約

団体交渉とは、労働組合と使用者またはその団体が、労働条件その他の労働関係に関する事項について交渉することである。団体交渉権は、憲法第28条および労働組合法によって保障されている労働者の基本的権利である。

団体交渉の結果として労使間で合意が成立した場合、その内容は労働協約として文書化される。労働協約は、個別の労働契約よりも優位する効力を持ち、労働協約の定める基準に達しない労働条件は無効となる。

団体交渉が不調に終わった場合、労働組合は争議行為に訴えることができる。このように、団体交渉と労働争議は密接に関連しており、労働関係調整法は団体交渉が決裂した後の紛争解決手段を提供する役割を果たす。

使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、不当労働行為として禁止されている。団体交渉拒否に対しては、労働委員会に救済を申し立てることができる。

不当労働行為制度

不当労働行為とは、使用者が労働者の団結権や団体交渉権を侵害する行為であり、労働組合法第7条により禁止されている。具体的には、組合員であることを理由とする不利益取扱い、団体交渉の拒否、労働組合の運営に対する支配介入、労働委員会への申立てを理由とする不利益取扱いなどが該当する。

不当労働行為が行われた場合、労働組合または労働者は労働委員会に救済を申し立てることができる。労働委員会は審査を行い、不当労働行為が認められる場合には、使用者に対して救済命令を発する。救済命令の内容には、不利益取扱いの原状回復、団体交渉応諾の命令、支配介入行為の中止命令などが含まれる。

不当労働行為の救済制度は、労働者の集団的権利を実効的に保障するための重要な仕組みであり、労働関係調整法の調整手続と相互に補完する関係にある。労働争議の背景に不当労働行為がある場合、両制度が並行して機能することもある。

労働争議の統計と動向

日本における労働争議の件数は、戦後の混乱期をピークとして、その後減少傾向にある。厚生労働省の統計によれば、1970年代には年間数千件の争議行為が発生していたが、近年では年間数十件程度にまで減少している。

争議の減少要因としては、労使関係の成熟、企業別労働組合の定着、団体交渉による紛争解決の一般化、経済環境の変化などが指摘されている。また、労働組合の組織率自体が低下しており、集団的労働運動の基盤が弱体化していることも一因である。

一方で、争議件数は減少しているものの、個別労働紛争の件数は増加傾向にある。労働局に寄せられる個別労働紛争の相談件数は、年間数十万件に上っており、労働問題の性質が集団的紛争から個別紛争へとシフトしていることが窺える。

争議行為の態様も変化しており、長期のストライキよりも、短時間の時限ストや部分ストといった戦術的な争議行為が多くなっている。また、使用者側の対応も柔軟化しており、法的対立よりも話し合いによる解決を志向する傾向が強まっている。

年代争議件数(概数)主な特徴
1940年代後半数千件戦後労働運動の高揚期、大規模ストライキ頻発
1950〜1960年代数千件春闘の定着、公共部門での争議活発化
1970年代数千件オイルショック後の賃金闘争、労使協調路線への転換開始
1980〜1990年代数百件争議件数の顕著な減少、企業別組合の安定化
2000年代以降数十件争議の更なる減少、個別労働紛争の増加

公務員の労働基本権

公務員の労働基本権については、民間労働者とは異なる規制が設けられている。国家公務員法および地方公務員法により、公務員は争議権を行使することが禁止されている。これは、公務の公共性と継続性を確保するためである。

ただし、公務員にも団結権と団体交渉権は認められており(警察職員や消防職員などを除く)、人事院勧告制度や公平委員会制度などによって労働条件の改善が図られる仕組みが整備されている。

公務員が違法な争議行為を行った場合、懲戒処分の対象となるだけでなく、刑事罰が科される可能性もある。過去には、公務員のストライキに対して厳しい処分が行われた事例が多数存在する。

公務員の労働基本権のあり方については、ILO(国際労働機関)からも度々改善勧告が出されており、公務員制度改革の重要な論点の一つとなっている。労働関係調整法は、原則として公務員には適用されないが、公共企業体等労働関係法(現在は廃止)など、公務員の労働関係を規律する特別法との関連で理解される必要がある。

ストライキ権の法的保護

憲法第28条は、勤労者の団結権、団体交渉権、争議権(ストライキ権)を保障している。これらは労働基本権と呼ばれ、労働者が使用者と対等な立場で交渉するために不可欠な権利とされる。

争議権の行使である争議行為は、正当なものである限り、刑事上および民事上の免責を受ける。つまり、正当なストライキによって使用者に損害が生じても、労働者は損害賠償責任を負わないし、刑事責任も問われない。

ただし、争議行為が正当性を持つためには、一定の要件を満たす必要がある。主体が労働組合またはその構成員であること、目的が労働条件の維持改善など正当なものであること、手段が社会通念上相当なものであること、などが要件とされる。

暴力を伴う争議行為、使用者の施設を占拠する行為、第三者に重大な損害を及ぼす行為などは、正当性を欠くと判断される可能性が高い。また、公益事業における予告義務違反や、緊急調整期間中の争議行為も違法となる。

正当性を欠く争議行為に対しては、使用者は損害賠償請求や懲戒処分を行うことができる。さらに、争議行為の態様によっては、威力業務妨害罪や建造物侵入罪などの刑事責任が問われることもある。

脚注・注釈・出典

  • [^1] e-Gov法令検索「労働関係調整法」(https://laws.e-gov.go.jp/law/321AC0000000025) 第1条では、本法が労働組合法と相俟って、労働関係の公正な調整を図り、労働争議を予防し、又は解決して、産業の平和を維持し、もって経済の興隆に寄与することを目的とすると規定されている。本法は労働三法の一つとして、労働争議の予防および解決という固有の役割を担う。
  • [^2] 争議行為の正当性については、主体、目的、手段、態様の各要素を総合的に判断して決定される。三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成4年9月25日第二小法廷判決)では、「使用者に対する経済的地位の向上のための労働条件の維持改善に関する主張を貫徹することを目的とする行為」が正当な争議行為の目的として認められている。詳細は最高裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/) で判例検索が可能。
  • [^3] 労働関係調整法第37条は、仲裁裁定があった場合、当事者はこれに服従する義務があり、仲裁に付された事項については争議行為をしてはならないと規定している。法令全文はe-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/321AC0000000025) で閲覧可能。
  • [^4] 中央労働委員会ウェブサイト「労働争議の調整の種類(あっせん・調停・仲裁)及び手続きの流れ」(https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/sougi/sougi01.html) では、労働委員会の組織、権限、調整手続の詳細が解説されている。中央労働委員会および都道府県労働委員会は、公益委員、労働者委員、使用者委員の三者構成により、不当労働行為の審査と労働争議の調整を担当する。
  • [^5] 緊急調整制度については、労働関係調整法第35条の2以下に規定されており、発動要件や手続が厳格に定められている。公益事業における争議行為の予告義務については、厚生労働省「争議行為の予告通知について」(https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/sougi/sougi03.html) に詳細な解説がある。公益事業の関係当事者が争議行為を行うには、少なくとも10日前までに労働委員会および厚生労働大臣または都道府県知事に通知する必要がある。
  • [^6] 争議行為の正当性に関する判例法理は、多数の裁判例の積み重ねによって形成されてきた。代表的な判例として、三菱重工長崎造船所事件(最高裁昭和56年9月18日判決、最高裁平成4年9月25日判決など複数の関連判例がある)が挙げられる。判例検索は最高裁判所ウェブサイト(https://www.courts.go.jp/) および各種法律データベースで可能。なお、厚生労働省「令和5年労働争議統計調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/14-r05.html) によれば、近年の労働争議件数は大幅に減少しており、令和5年は292件となっている。

関連項目

外部リンク

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