公衆浴場法

公衆浴場法は、公衆浴場の設置と運営に関する基準を定めた日本の法律であり、公衆衛生の向上と利用者の安全確保を目的としている。昭和23年(1948年)に制定され、銭湯や温泉施設などの公衆浴場の適切な運営を図るとともに、衛生基準や構造設備、営業許可、距離制限などを規定している。この法律は厚生労働省が所管し、都道府県知事等が許可権限を持つ。また、風俗営業の一部であるソープランドが「個室付浴場業」として公衆浴場法の規制対象となることでも知られている。

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概要

公衆浴場法(昭和23年法律第139号)は、公衆浴場の経営者および利用者の衛生と風紀を確保し、公衆衛生の向上を図ることを目的とした法律である。法律の対象となる公衆浴場とは、温湯、潮湯または温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設を指す。

公衆浴場は法律上、普通公衆浴場と特殊公衆浴場の2つに分類される。普通公衆浴場は、いわゆる銭湯や地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設であり、料金の上限規制や適正配置規制(距離制限)の対象となる。一方、特殊公衆浴場は、健康ランド、スーパー銭湯、サウナ、ソープランドなどの個室付浴場を含む多様な入浴施設であり、普通公衆浴場とは異なる規制体系が適用される。

公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事(保健所設置市または特別区においては市長または区長)の許可を受けなければならない。許可にあたっては、施設の構造設備基準、衛生基準、距離制限などの要件を満たす必要がある。

この法律は、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)売春防止法とともに、性風俗関連特殊営業であるソープランドの規制にも関係している。

法律の目的と背景

制定の経緯

公衆浴場法は昭和23年(1948年)7月12日に公布され、同年8月1日に施行された。戦後の混乱期において、多くの国民が自宅に浴室を持たず、銭湯などの公衆浴場を日常的に利用していた時代背景がある。公衆浴場は地域住民の保健衛生上欠くことのできない施設として位置づけられ、その適正な配置と衛生的な運営を確保する必要性から本法が制定された。

制定当初は、戦後復興期における公衆衛生の向上と、限られた燃料資源の有効活用を図る目的もあった。また、公衆浴場が過度に集中することによる経営の不安定化を防ぎ、地域住民に安定的な入浴機会を提供するため、距離制限(適正配置規制)が導入された。

法律の目的

公衆浴場法第1条は、「この法律は、公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の適正を図ることによつて、公衆浴場における衛生水準を維持し、もつて公衆衛生の向上に寄与することを目的とする」と規定している。

具体的には、以下の目的が含まれる。

  1. 公衆浴場の適正配置による安定的な運営の確保
  2. 浴場施設の衛生基準の維持
  3. 利用者の安全と健康の保護
  4. 公衆衛生水準の向上

公衆浴場の分類

公衆浴場法では、公衆浴場を普通公衆浴場と特殊公衆浴場に分類している。この区分は法律本文には明記されていないが、厚生省(現・厚生労働省)の通知によって運用されている。

普通公衆浴場

普通公衆浴場は、地域住民の日常生活において保健衛生上必要なものとして利用される施設であり、いわゆる「銭湯」がこれに該当する。普通公衆浴場には以下の特徴がある。

  • 入浴料金の上限規制(都道府県知事等による統制額の設定)
  • 適正配置規制(距離制限)の適用
  • 税制上の優遇措置(固定資産税の軽減など)

普通公衆浴場の入浴料金は、物価統制令に基づき都道府県知事等が統制額として定める。2026年2月現在、東京都の場合、大人(12歳以上)の入浴料金は520円、中人(6歳以上12歳未満)は200円、小人(6歳未満)は100円となっている。

特殊公衆浴場

特殊公衆浴場は、普通公衆浴場以外の公衆浴場を指し、以下のような施設が含まれる。

  • 健康ランド、スーパー銭湯
  • サウナ
  • 温泉浴場
  • 個室付浴場(ソープランド)

特殊公衆浴場には、料金規制や距離制限は適用されず、営業者が自由に料金を設定できる。ただし、衛生基準や構造設備基準は遵守する必要がある。

個室付浴場については、風営法における性風俗関連特殊営業の届出も必要となり、二重の規制を受ける。

営業許可制度

許可申請

公衆浴場を経営しようとする者は、公衆浴場法第2条第1項に基づき、都道府県知事(保健所設置市または特別区においては市長または区長)の許可を受けなければならない。許可申請にあたっては、以下の事項を記載した申請書を提出する必要がある。

  • 営業者の氏名および住所(法人の場合は名称、所在地、代表者氏名)
  • 施設の名称および所在地
  • 施設の構造設備の概要
  • 営業の種別(普通公衆浴場または特殊公衆浴場の別)

申請書には、施設の配置図、平面図、構造設備の図面などを添付する。

許可基準

都道府県知事等が許可を行うにあたっては、以下の基準を審査する。

  1. 欠格事由の有無(第2条第2項):申請者が精神の機能の障害により公衆浴場の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者、または成年被後見人もしくは被保佐人に該当しないこと
  2. 構造設備基準(第3条):浴槽、脱衣室、換気設備などが厚生労働省令で定める基準に適合すること
  3. 距離制限(第2条第2項):普通公衆浴場の場合、配置の適正を欠くために公衆衛生上不適当であると認めるときは許可しないことができる

距離制限(適正配置規制)

普通公衆浴場については、既存の公衆浴場との距離が一定以下の場合、「配置の適正を欠く」として許可を拒否できる規定がある。これは、公衆浴場の過度な集中による経営の不安定化を防ぎ、地域住民に安定的な入浴機会を提供するための措置である。

距離制限の基準は都道府県の条例で定められており、地域によって異なる。たとえば、東京都の場合、東京都公衆浴場の設置場所の配置及び衛生措置等の基準に関する条例により、既存の普通公衆浴場から直線距離で250メートル以内の場所には原則として新たな普通公衆浴場の設置を認めないこととされている。

ただし、距離制限については、昭和30年の最高裁判決(最高裁昭和30年1月26日大法廷判決)において合憲と判断されているものの、営業の自由との関係で議論が続いている。

構造設備基準

公衆浴場法第3条および公衆浴場法施行規則に基づき、公衆浴場の構造設備は以下の基準を満たす必要がある。

浴槽に関する基準

  • 浴槽の内面は、清掃しやすく、かつ、消毒をしやすいものであること
  • 浴槽の容量は、当該浴槽を使用する者1人につき、おおむね0.18立方メートル以上であること
  • 浴槽の水面積は、当該浴槽を使用する者1人につき、おおむね0.25平方メートル以上であること

換気および採光に関する基準

  • 浴室には、換気を十分に行うことができる設備を設けること
  • 浴室および脱衣室には、採光を十分に行うことができる窓その他の設備を設けること

脱衣室に関する基準

  • 脱衣室は、浴室と明確に区分されていること
  • 脱衣室には、利用者の衣類等を保管するための設備を設けること

給水および排水に関する基準

  • 浴槽水は、常に清浄な状態を保つことができる構造であること
  • 排水設備は、汚水の流出により周囲を不潔にするおそれのないものであること

個室付浴場に関する特別基準

個室付浴場(ソープランド)については、公衆浴場法施行規則第4条第2項により、以下の特別な基準が適用される。

  • 個室の数は、おおむね5室以内であること
  • 個室の床面積は、おおむね6.6平方メートル以内であること
  • 個室は、外部から内部を容易に見通すことができない構造であること
  • 個室には、施錠設備を設けないこと

これらの基準は、個室内での不適切な行為を防止するために設けられているが、実際にはソープランドでは風営法に基づく店舗型性風俗特殊営業の届出を行っており、両法律の規制を受ける形となっている。

衛生措置

公衆浴場の経営者は、公衆浴場法第4条および公衆浴場における衛生等管理要領に基づき、以下の衛生措置を講じる義務がある。

浴槽水の管理

  • 浴槽水は、常に清浄な状態を保つこと
  • 循環式浴槽の場合、ろ過器による適切な処理を行うこと
  • 浴槽水の水質検査を定期的に実施すること
  • 塩素系薬剤による消毒を行い、遊離残留塩素濃度を0.4mg/L以上に保つこと(レジオネラ症対策)

レジオネラ症対策

公衆浴場におけるレジオネラ症の集団感染事例が複数報告されたことを受け、厚生労働省は平成15年(2003年)に「公衆浴場における衛生等管理要領」を策定し、レジオネラ症対策の徹底を図っている。

主な対策として、以下が求められている。

  • 浴槽水の完全換水(週1回以上)
  • 浴槽、配管、ろ過器等の定期的な清掃・消毒
  • 浴槽水のレジオネラ属菌検査(年1回以上)
  • 従業員への衛生教育の実施

施設の清潔保持

  • 浴室、脱衣室等を常に清潔に保つこと
  • 浴場内における飲食、喫煙を禁止すること
  • 感染症患者の入浴を制限すること

利用者への対応

  • 伝染性の疾病にかかっていると認められる者の入浴を拒否できる
  • 未成年者の午後10時以降の入浴を保護者の同伴なしに認めない

監督および罰則

都道府県知事等の監督権限

都道府県知事等は、公衆浴場法第6条に基づき、以下の監督権限を有する。

  • 公衆浴場の構造設備または衛生措置について、必要な報告を求めること
  • 職員に公衆浴場に立ち入らせ、検査させること
  • 構造設備または衛生措置が基準に適合しない場合、改善命令を発すること
  • 営業の停止または許可の取消しを命じること

罰則規定

公衆浴場法違反に対しては、以下の罰則が定められている(第8条から第10条)。

  • 無許可営業:6月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 改善命令違反:3月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • 構造設備基準違反:30万円以下の罰金
  • 虚偽報告、立入検査拒否:30万円以下の罰金

ソープランドとの関係

個室付浴場としての規制

ソープランドは、公衆浴場法上は「個室付浴場」として特殊公衆浴場に分類され、営業許可の対象となる。個室付浴場とは、個室において客に浴場を利用させる公衆浴場であり、風俗営業の一形態であるソープランドが該当する。

ソープランドを営業するには、公衆浴場法による営業許可に加えて、風営法に基づく店舗型性風俗特殊営業の届出も必要となる。

法規制の重複

ソープランドは、以下の複数の法律による規制を受ける。

この複雑な法規制の枠組みは、ソープランドという業態が、表向きは「個室付浴場」として合法的に営業しながら、実質的には性的サービスを提供する風俗店として機能している実態を反映している。

歴史的経緯

ソープランドの前身である「トルコ風呂」は、昭和30年代から40年代にかけて急速に普及した。当初は公衆浴場法の規制対象外であったが、昭和41年(1966年)の公衆浴場法施行規則改正により、個室付浴場として規制対象とされた。

昭和59年(1984年)には、トルコ共和国からの抗議を受けて業界団体が「ソープランド」への名称変更を決定した。その後、風営法の改正により、平成10年(1998年)から店舗型性風俗特殊営業の届出制度が導入され、現在の規制体系が確立された。

料金規制

普通公衆浴場の料金統制

普通公衆浴場の入浴料金は、物価統制令(昭和21年勅令第118号)第3条に基づき、都道府県知事等が統制額として定める。これは、普通公衆浴場が地域住民の日常生活に不可欠な公共性の高い施設であることから、適正な料金水準を維持し、利用者の負担を軽減するための措置である。

統制額は、燃料費や人件費などの経営コストの変動を考慮して、定期的に改定される。改定にあたっては、公衆浴場業者の団体(公衆浴場業生活衛生同業組合など)からの申請を受けて、物価審議会の審議を経て決定される。

2026年の料金水準

2026年2月現在、主要都道府県における普通公衆浴場の入浴料金統制額は以下のとおりである。

都道府県大人(12歳以上)中人(6歳以上12歳未満)小人(6歳未満)適用開始日
東京都520円200円100円2024年7月1日
大阪府490円180円80円2023年10月1日
神奈川県520円200円100円2024年7月1日
愛知県480円150円80円2023年10月1日
北海道490円180円80円2024年4月1日

なお、これらは統制額の上限であり、実際の料金はこれを下回ることもできる。

特殊公衆浴場の料金

特殊公衆浴場には料金統制が適用されないため、営業者が自由に料金を設定できる。健康ランドやスーパー銭湯の入浴料金は一般に1,000円から3,000円程度、ソープランドの料金は地域や店舗により大きく異なるが、概ね20,000円から100,000円以上の範囲である。

現代における課題

普通公衆浴場の減少

高度経済成長期以降、家庭内浴室の普及により、普通公衆浴場の利用者数は減少傾向にある。厚生労働省の衛生行政報告例によると、全国の普通公衆浴場数は、昭和43年(1968年)の約18,000軒をピークに減少を続け、令和4年(2022年)には約1,900軒まで減少している。

この減少は、以下の要因による。

  • 家庭内浴室の普及率の上昇
  • 経営者の高齢化と後継者不足
  • 燃料費や人件費の上昇による採算性の悪化
  • 建物の老朽化と改修費用の負担

地域コミュニティ機能の喪失

普通公衆浴場は、単なる入浴施設としてだけでなく、地域住民の交流の場、コミュニティの核としての役割を担ってきた。銭湯の減少は、このような地域コミュニティ機能の喪失につながる懸念がある。

一部の自治体では、銭湯の保存・活性化を図るため、経営支援や建物の改修補助などの施策を実施している。また、銭湯を観光資源として活用する取り組みも見られる。

距離制限の見直し論議

普通公衆浴場に対する距離制限(適正配置規制)については、営業の自由を制約するものとして、見直しを求める意見がある。特に、既存の銭湯が廃業した地域において、新規参入が距離制限により阻害されるケースがあることが指摘されている。

一方で、距離制限を撤廃した場合、過当競争により経営が不安定化し、結果として地域から銭湯が消滅する可能性も懸念されている。

レジオネラ症対策の強化

公衆浴場におけるレジオネラ症の集団感染事例が繰り返し報告されており、衛生管理の徹底が課題となっている。厚生労働省は、「公衆浴場における衛生等管理要領」の遵守を求めているが、小規模な施設では十分な対応が困難な場合もある。

令和3年(2021年)には、熊本県の温泉施設でレジオネラ症の集団感染が発生し、営業停止処分が下された事例がある。このような事例を踏まえ、衛生管理体制の強化と行政による監視の徹底が求められている。

インバウンド需要への対応

訪日外国人観光客の増加に伴い、銭湯や温泉施設を訪れる外国人利用者が増加している。しかし、入浴マナーや刺青(タトゥー)に対する対応など、文化の違いによる摩擦が生じるケースもある。

一部の施設では、多言語表示の設置や外国人向けの入浴マナー啓発を行っている。また、刺青のある利用者については、施設によって対応が分かれており、全面禁止、シールで覆うことを条件に許可、サイズや部位によって判断するなど、様々な運用がなされている。

他の法律との関係

風営法との関係

公衆浴場法と風営法は、ソープランドの規制において密接に関連している。ソープランドを営業するには、公衆浴場法による営業許可と、風営法による店舗型性風俗特殊営業の届出の両方が必要となる。

風営法では、性風俗関連特殊営業に対して、営業地域の制限、18歳未満の客・従業員の禁止、公安委員会への届出などが義務付けられている。

売春防止法との関係

売春防止法は、売春(不特定の相手方との性交またはその類似行為を対償を得て行うこと)そのものは違法としていないが、売春の勧誘、周旋、場所提供などの行為を処罰対象としている。

ソープランドでは、売春類似行為が行われている実態があるが、法的には「客と従業員の個人的な関係」として扱われることで、売春防止法違反の適用を回避している。ただし、明示的に性交を前提とした勧誘や契約を行った場合は、売春防止法違反として摘発される可能性がある。

旅館業法との区別

旅館業法(昭和23年法律第138号)は、宿泊施設の営業を規制する法律であるが、公衆浴場法とは別個の法体系である。ただし、温泉旅館など、宿泊施設に併設された浴場については、宿泊客専用の場合は旅館業法の規制対象となり、一般客にも開放する場合は公衆浴場法の規制も受ける場合がある。

近年では、日帰り入浴施設を併設する宿泊施設が増加しており、旅館業法と公衆浴場法の両方の規制対象となるケースが増えている。

建築基準法との関係

公衆浴場の建物は、建築基準法(昭和25年法律第201号)による規制も受ける。特に、不特定多数の者が利用する施設として、防火・避難設備の設置、構造安全性の確保などが求められる。

また、都市計画法に基づく用途地域の制限により、ソープランドなどの個室付浴場の設置が制限される地域がある。

国際比較

欧米諸国における公衆浴場

欧米諸国では、日本のような公衆浴場文化は一般的ではないが、スパやサウナ施設が存在する。これらの施設は、主に健康増進やレクリエーション目的で利用される。

ドイツやフィンランドでは、サウナ文化が発達しており、公共のサウナ施設が広く利用されている。これらの施設に対する法規制は、主に衛生基準や建築基準に関するものであり、日本の公衆浴場法のような包括的な法律は存在しない場合が多い。

韓国における銭湯文化

韓国には「チムジルバン」と呼ばれる公衆浴場施設があり、日本の銭湯と類似した文化が存在する。韓国でも、公衆衛生管理法により公衆浴場の営業が規制されており、許可制度、衛生基準、施設基準などが定められている。

チムジルバンは、入浴施設に加えて、休憩室、食堂、娯楽施設などを備えた総合レジャー施設として発展しており、24時間営業の施設も多い。

台湾における温泉文化

台湾には日本統治時代の影響で温泉文化が根付いており、各地に温泉施設が存在する。台湾の温泉施設に対する規制は、温泉法および観光発展条例により行われており、温泉の保護と適正利用、施設の安全性確保が図られている。

関連分野の基礎知識

公衆衛生行政

公衆浴場法は、公衆衛生行政の一環として位置づけられる。公衆衛生とは、組織された地域社会の努力を通じて、疾病を予防し、生命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進を図ることを目的とする科学および技術である。

公衆衛生行政は、国レベルでは厚生労働省が所管し、地方レベルでは都道府県および市町村の保健所、保健センターなどが実施機関となる。公衆浴場法の施行に関しては、都道府県知事(保健所設置市または特別区においては市長または区長)が主な権限を有する。

生活衛生関係営業

公衆浴場業は、生活衛生関係営業の一つとして位置づけられる。生活衛生関係営業とは、飲食店営業、理容業、美容業、クリーニング業、公衆浴場業など、国民の日常生活に密接に関係し、その適正な運営が公衆衛生の向上に寄与する営業を指す。

これらの営業については、生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(生衛法、昭和32年法律第164号)により、業界団体の組織化、経営指導、融資制度などが定められている。公衆浴場業者は、都道府県ごとに公衆浴場業生活衛生同業組合を組織し、業界の振興と衛生水準の向上に取り組んでいる。

感染症対策

公衆浴場は、不特定多数の者が利用する施設であることから、感染症の予防対策が重要である。特に、レジオネラ症、皮膚感染症、性感染症などのリスクが指摘されている。

レジオネラ症は、レジオネラ属菌による感染症であり、汚染された水の飛沫を吸入することで発症する。公衆浴場では、循環式浴槽や加温設備において菌が増殖しやすいため、適切な水質管理と清掃・消毒が不可欠である。

厚生労働省は、「公衆浴場における衛生等管理要領」および「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」により、レジオネラ症対策の徹底を求めている。

風俗産業と法規制

風俗産業は、性的サービスを提供する産業の総称であり、日本ではソープランドファッションヘルスデリヘルピンサロなどが含まれる。

これらの業種は、風営法により性風俗関連特殊営業として規制されている。ソープランドのみが、公衆浴場法と風営法の両方の規制を受ける特殊な業態である。

地域振興と銭湯文化

近年、伝統的な銭湯文化を地域振興や観光資源として活用する取り組みが見られる。東京都台東区の「下町銭湯巡り」、大阪市の「銭湯スタンプラリー」など、銭湯を巡るイベントが開催されている。

また、古い銭湯の建物をリノベーションし、カフェやギャラリーとして活用する事例もある。これらの取り組みは、銭湯文化の保存と新たな価値創造の両立を目指すものである。

法改正の動向

近年の主な改正

公衆浴場法本体については、制定以来大きな改正は行われていないが、施行規則や通知により、時代に応じた運用の見直しが行われている。

平成15年(2003年)には、レジオネラ症対策の強化を目的として、「公衆浴場における衛生等管理要領」が策定された。この要領では、浴槽水の水質管理基準、清掃・消毒の方法、レジオネラ属菌検査の実施などが詳細に定められている。

平成26年(2014年)には、障害者差別解消法の制定に伴い、公衆浴場における障害者への合理的配慮の提供が求められるようになった。具体的には、車椅子利用者のためのバリアフリー対応、視覚障害者への音声案内、聴覚障害者への文字情報提供などが推奨されている。

今後の課題と展望

公衆浴場法については、以下のような課題と展望が指摘されている。

  1. 距離制限の見直し:営業の自由との関係で、距離制限の合理性が問われており、規制緩和を求める意見がある一方、銭湯の安定的な経営を確保するための規制維持を求める意見もある。
  2. 衛生管理の強化:レジオネラ症対策を中心とした衛生管理の徹底が引き続き課題となっており、小規模施設への支援策が求められている。
  3. 銭湯文化の保存と振興:普通公衆浴場の減少に対応するため、文化的価値の再評価と経営支援策の充実が必要とされている。
  4. 外国人利用者への対応:インバウンド風俗需要の増加に伴い、多言語対応や文化の違いへの配慮が求められている。

主な判例

距離制限に関する判例

公衆浴場法の距離制限については、その合憲性が争われた重要な判例がある。

最高裁昭和30年1月26日大法廷判決(最高裁判所民事判例集9巻1号89頁)

この判決では、公衆浴場法第2条第2項の距離制限規定について、憲法第22条第1項(職業選択の自由)に違反するか否かが争われた。最高裁は、以下のように判示して合憲と判断した。

  • 普通公衆浴場は、国民保健および環境衛生上必要な施設である
  • 過当競争により経営が不安定化すれば、浴場の衛生設備の低下を招き、公衆衛生上好ましくない結果を生じる
  • 距離制限は、公共の福祉のための合理的な制限である

この判例は、職業選択の自由に対する制約が許容される場合の基準を示したものとして、憲法学上も重要な意義を持つ。

その他の判例

東京高裁平成8年9月26日判決

個室付浴場(ソープランド)の営業許可申請に対し、風紀上の理由から不許可処分がなされた事案。裁判所は、公衆浴場法の許可基準には風紀上の考慮は含まれず、風営法による規制で対応すべきであるとして、不許可処分を取り消した。

統計データ

公衆浴場数の推移

厚生労働省の衛生行政報告例によると、全国の公衆浴場数(普通公衆浴場)は以下のように推移している。

年度公衆浴場数(軒)
昭和43年(1968年)約18,000
昭和60年(1985年)約10,400
平成12年(2000年)約5,600
平成22年(2010年)約4,000
令和4年(2022年)約1,900

このデータから、普通公衆浴場が半世紀余りで約10分の1に減少していることがわかる。

都道府県別公衆浴場数

令和4年(2022年)時点での都道府県別公衆浴場数(普通公衆浴場)の上位は以下のとおりである。

順位都道府県公衆浴場数(軒)
1東京都約430
2大阪府約250
3北海道約160
4神奈川県約120
5愛知県約90

東京都と大阪府が突出して多く、大都市圏に集中している傾向が見られる。

脚注・注釈・出典

  1. 公衆浴場法(昭和23年法律第139号)全文 – e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000139
  2. 厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(健発第1811001号、平成15年11月11日) – https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/030908-1.html
  3. 厚生労働省「衛生行政報告例」 – https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/36-19.html
  4. 東京都福祉保健局「公衆浴場の許可申請について」 – https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/sento/kyoka.html
  5. 最高裁判所判例集(最高裁判所民事判例集9巻1号89頁、昭和30年1月26日大法廷判決) – https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55891
  6. 物価統制令(昭和21年勅令第118号) – e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321IO0000000118
  7. 生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(昭和32年法律第164号) – e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=332AC0000000164
  8. 厚生労働省「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(平成15年7月25日健発第0725001号) – https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/030729-1.html
  9. 全国公衆浴場業生活衛生同業組合連合会 公衆浴場数の推移 – http://www.1010.or.jp/
  10. 公衆浴場法施行規則(昭和23年厚生省令第2号) – e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323M40000100002

関連項目

外部リンク

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