フリーランス保護新法(フリーランスほごしんぽう)は、個人として業務を請け負うフリーランス(特定受託事業者)と、業務を発注する事業者(特定受託業務従事者)との間の取引の適正化および就業環境の整備を目的とした日本の法律である。
正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)。2023年(令和5年)5月12日に公布され、2024年(令和6年)11月1日に施行された。この法律は、従来の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」ではカバーしきれなかった、資本金規模を問わない全ての事業者間の取引を対象としており、現在、フリーランスの権利保護における最も重要な法的基盤となっている。
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概要
フリーランス保護新法は、雇用の形態に寄らない働き方が拡大する中で、組織(企業)に対して立場の弱い個人事業主が不当な不利益を被らないよう、発注者に対して「取引条件の明示」「報酬支払期限の設定」「禁止行為の遵守」などの義務を課すものである。
本法は大きく分けて以下の2つの柱で構成される。
- 取引の適正化: 取引条件の書面等による明示、報酬支払期限の60日以内設定、不当な返品や減額の禁止。
- 就業環境の整備: 育児・介護との両立への配慮、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントの防止対策、契約解除の事前予告。
現在の労働市場において、ITエンジニア、クリエイター、ライターのみならず、ナイトレジャー業界におけるキャスト(ホステス等)やインフルエンサーなど、個人事業主として契約する広範な職種に対して本法の遵守が求められている[1]。
制定の背景と歴史的経緯
働き方の多様化と法的空白
2010年代後半から、ギグ・エコノミーの進展や副業の解禁により、特定の企業に雇用されない「フリーランス」が増加した。しかし、フリーランスは労働基準法上の「労働者」に該当しないケースが多く、未払い、一方的な減額、ハラスメントといったトラブルに直面しても、法的保護が不十分であった。
下請法との限界
従来、取引の適正化を担ってきた下請法は、発注者側の資本金が1,000万円を超えていることが適用要件の一つであった。そのため、スタートアップ企業や小規模事業者が発注者となる場合には法が適用されず、保護の「空白地帯」が生じていた。
法制化のプロセス
政府は2021年に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を策定。その後、実効性を担保するために新法の策定が進められ、2023年の国会で可決・成立した。2024年11月の施行から1年以上が経過した現在、公正取引委員会および中小企業庁による厳格な執行が行われている。
本法の対象(定義)
本法では、当事者を以下のように定義している。
- 特定受託事業者(フリーランス): 業務委託の相手方である個人事業主(従業員を雇用していない者)または、一人社長の法人。
- 特定業務委託事業者(発注者): フリーランスに業務を委託する事業者。従業員を一人でも雇用している事業者が該当する。
主な義務と禁止事項
発注者の義務は、取引の期間(単発か継続か)によって異なる。
取引条件の明示(第3条)
発注者は、フリーランスに対して業務を委託した直後、以下の事項を書面または電磁的方法(メール、SNS、チャットツール等)で明示しなければならない。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注者の名称
- 給付を受領する場所・日
報酬支払期限の60日ルール(第4条)
報酬の支払期限は、発注者が成果物を受領した日(または役務の提供を受けた日)から数えて60日以内の、できる限り短い期間内に設定しなければならない。再委託の場合においても、元請けが報酬を受け取ってから30日以内等の特例があるが、原則として支払いの遅延は厳禁とされる。
禁止行為(第5条)
6ヶ月以上の継続的な取引(更新により6ヶ月以上となる場合を含む)において、発注者は以下の行為を行ってはならない。
- 受領拒否: フリーランスに落ち度がないのに、成果物の受け取りを拒むこと。
- 報酬の減額: 発注後に不当に報酬を削ること。
- 返品: 受領した成果物を不当に返品すること。
- 買いたたき: 通常の相場に比べて著しく低い報酬を一方的に定めること。
- 購入・利用強制: 自社製品やサービスの購入を強制すること。
- 不当な経済上の利益の提供要請: 協賛金の拠出などを求めること。
- 内容変更・やり直し: フリーランスの負担で不当に内容を変更させたり、何度もやり直しをさせたりすること。
就業環境の整備
本法は取引のルールだけでなく、フリーランスの働く環境についても規定している。
| 項目 | 内容 | 対象 |
| 育児介護等への配慮 | 申出があった場合、育児や介護と両立できるよう必要な配慮を行う。 | 6ヶ月以上の継続取引 |
| ハラスメント防止 | セクハラ、パワハラ、マタハラ等の防止体制を整備し、適切に対応する。 | 全ての発注者 |
| 中途解約の予告 | 契約を解除する場合、少なくとも30日前までに予告する義務。 | 6ヶ月以上の継続取引 |
法執行と罰則
本法の遵守状況は、公正取引委員会、中小企業庁、および厚生労働省が監視している。
- 申出制度: フリーランスは、違反行為がある場合に各行政機関に対して申出を行うことができる。
- 報告徴収・立入検査: 行政当局は、発注者に対して報告を求めたり、事務所への立入検査を行う権限を持つ。
- 勧告・命令・公表: 違反が認められた場合、是正勧告がなされる。勧告に従わない場合は「命令」が出され、その旨が企業名とともに公表される。
- 罰則: 命令に違反した場合や、虚偽の報告をした場合には、50万円以下の罰金が科される(第24条、第25条)。
現在の実務動向
本法の運用は以下のフェーズに入っている。
- デジタル・プラットフォームへの適用: アプリを介した単発業務(ギグワーク)においても、条件明示が自動化されるシステム改修が完了し、透明性が向上している。
- ナイトレジャー・接客業の適正化: キャバクラや高級クラブにおけるキャストとの契約において、これまでの「口約束」から「デジタル契約」への移行が定着。一方的な罰金(ペナルティ)による報酬減額が本法の「報酬の不当減額」に該当するとの判断が一般化している[2]。
- 「偽装フリーランス」への厳罰化: 実態は労働者であるにもかかわらずフリーランスとして契約し、本法の義務も労働法の義務も回避しようとする企業に対し、行政の合同調査が強化されている[3]。
脚注・注釈
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」参照。
- 中小企業庁「令和4年度フリーランス実態調査結果」に基づく。
- 相談事例集 フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】
出典
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 公正取引委員会 – フリーランス法特設サイト
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法) | 中小企業庁
- 厚生労働省 – フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ








