性感染症(性病)

性感染症は、性的接触を介して病原体が感染することによって引き起こされる感染症の総称である。性器クラミジア感染症、淋菌感染症、梅毒、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、ヒト免疫不全ウイルス感染症など、多様な病原体による感染症が含まれる。性交のみならず、オーラルセックスやアナルセックスなど、粘膜や皮膚を介した性的接触によって感染が成立する。無症状または軽症のまま経過することも多く、自覚のないまま感染を拡大させるリスクがあるため、公衆衛生上の重要な課題となっている。日本では感染症法に基づく発生動向調査が実施されており、2024年には梅毒の報告数が14,663例と過去最多水準に達するなど、近年増加傾向が顕著である。

目次
[CM求人動画] シンデレラFCグループ
男女正社員/アルバイト 募集中

<東京|神奈川|埼玉>
👉詳細は公式サイト「幹部ナビ」をチェック👈

概要

性感染症は、英語でSexually Transmitted Infections(STI)と表記され、かつてはSexually Transmitted Disease(STD)とも呼ばれていたが、現在は症状が出ていない感染状態も含めて広く考えるために、STIという用語が主流となっている。性的接触により、口腔、性器、肛門などの粘膜や皮膚から病原体が侵入し、感染が成立する。病原体には細菌、ウイルス、真菌、原虫など多様な微生物が含まれ、それぞれ異なる臨床症状や経過を示す。

感染しても無症状であることが少なくないため、感染者が気付かないままパートナーに感染させてしまうことがある。また、適切な治療を受けなかった場合、不妊症、心血管系障害、神経系障害などの深刻な合併症や後遺症を残すこともある。特に生殖年齢にある女性が感染した場合には、母子感染により胎児や新生児に先天性の障害をもたらす可能性がある。

日本では、感染症法に基づき、性感染症の発生動向調査が実施されている。梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマなどは、医師による届出対象疾患とされ、全国的なサーベイランス体制が構築されている。厚生労働省は「性感染症に関する特定感染症予防指針」を策定し、予防啓発、検査・治療体制の整備、情報提供などの総合的な対策を推進している。

主な性感染症の種類

梅毒

梅毒は梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる感染症である。感染後の経過により、第1期から第4期に分類され、第2期までを早期梅毒、第3期以降を晩期梅毒と呼ぶ。

第1期梅毒では、感染後約3週間で感染部位に初期硬結と呼ばれる無痛性のしこりが形成され、その後硬性下疳に進展する。これらの症状は治療を行わなくても数週間で自然消退するが、病原体は体内に残存する。第2期梅毒では、感染後数か月を経て、全身に丘疹性の発疹が出現し、特に手のひらや足の裏にも現れることが特徴的である。これらの症状も自然に消失することがあるが、感染力は持続する。

治療を行わないまま放置すると、数年から数十年の潜伏期間を経て、第3期、第4期へと進行し、心血管系や中枢神経系に深刻な病変を生じ、生命を脅かすこともある。妊婦が梅毒に感染している場合、胎盤を通じて胎児に感染し、先天梅毒を引き起こす可能性がある。先天梅毒は死産、早産、新生児の神経系や骨の異常などを引き起こし得る。

日本における梅毒の報告数は、2014年頃から急増しており、2024年には14,663例が報告されている。これは2014年と比較して約10倍の増加である。治療にはペニシリン系抗菌薬が第一選択とされ、早期に適切な治療を行えば完治が可能である。

性器クラミジア感染症

性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマチスという細菌によって引き起こされる感染症で、日本における性感染症の中で最も報告数が多い疾患の一つである。

男性では尿道炎を主な症状とし、排尿時痛、尿道からの分泌物、軽度の掻痒感などが見られるが、無症状の場合も約半数に上る。女性では子宮頸管炎を引き起こすが、初期症状がほとんど認められないことが多く、おりものの増加や軽度の下腹部痛程度にとどまる。無症状のまま感染が進行すると、骨盤内炎症性疾患を引き起こし、不妊症や子宮外妊娠の原因となることがある。

オーラルセックスにより咽頭にも感染し、咽頭クラミジア感染症を引き起こすことがあるが、咽頭感染でも無症状であることが多い。治療には、アジスロマイシンやドキシサイクリンなどの抗菌薬が用いられる。治療期間中は性交渉を控え、パートナーも同時に検査・治療を受けることが、再感染やピンポン感染を防ぐために重要である。

淋菌感染症

淋菌感染症は、淋菌という細菌によって引き起こされる感染症である。男性では淋菌性尿道炎を主症状とし、排尿時の激しい痛み、尿道からの黄白色の膿性分泌物が特徴的である。女性では子宮頸管炎を引き起こし、おりものの増加、下腹部痛、発熱などの症状が見られるが、無症状の場合もある。

咽頭、直腸への感染も生じ得るが、これらの部位での感染は無症状であることが多い。治療を行わないまま放置すると、精巣上体炎、骨盤内炎症性疾患などを引き起こし、不妊症の原因となる。

近年、淋菌の薬剤耐性化が世界的な問題となっており、かつて第一選択薬であったペニシリン系、テトラサイクリン系、キノロン系抗菌薬への耐性菌が増加している。現在では、セフトリアキソンなどの注射用セファロスポリン系抗菌薬が第一選択とされているが、これらに対する耐性菌も報告されており、治療の難しさが増している。

性器ヘルペスウイルス感染症

性器ヘルペスウイルス感染症は、単純ヘルペスウイルス1型または2型の感染によって引き起こされる。性器、肛門周囲に、痛みやかゆみを伴う小水疱や潰瘍が形成されることが特徴である。初感染時には発熱、全身倦怠感、鼠径部リンパ節腫脹などの全身症状を伴うことがある。

ヘルペスウイルスは一度感染すると神経節に潜伏し、完全に排除することはできない。免疫力の低下、ストレス、疲労などをきっかけとして、ウイルスが再活性化し、再発を繰り返すことが特徴である。再発時の症状は初感染時よりも軽度であることが多いが、前兆として患部のピリピリ感や違和感を自覚することがある。

治療には、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬が用いられる。再発を繰り返す患者に対しては、抗ウイルス薬を継続的に服用する再発抑制療法が有効とされ、再発頻度を70〜80%減少させることが可能である。

尖圭コンジローマ

尖圭コンジローマは、ヒトパピローマウイルス(HPV)6型、11型などの低リスク型HPVの感染によって引き起こされる。性器、肛門周囲に、白色、淡ピンク色、褐色のイボ状の病変が出現し、増大・増数するとカリフラワー状や鶏のとさか状の外観を呈することが特徴である。

多くの場合、痛みやかゆみなどの自覚症状は軽微であるが、物理的な刺激により出血や疼痛を生じることがある。治療には、液体窒素による凍結療法、電気焼灼術、外科的切除などの局所療法や、イミキモドクリームなどの外用薬が用いられる。

HPVには100種類以上の型が存在し、尖圭コンジローマの原因となる低リスク型とは別に、子宮頸がんの主な原因となる高リスク型(16型、18型など)が存在する。HPVワクチンは、一部の高リスク型および低リスク型HPVの感染を予防することができ、子宮頸がんおよび尖圭コンジローマの予防に有効である。

ヒト免疫不全ウイルス感染症・エイズ

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は、HIVの感染によって引き起こされる。HIVは免疫細胞を破壊し、免疫機能を徐々に低下させる。適切な治療を行わないまま経過すると、免疫不全が進行し、日和見感染症や悪性腫瘍を発症する状態となり、これをエイズ(後天性免疫不全症候群)と呼ぶ。

HIVの感染経路は、性的接触、血液を介した感染、母子感染の3つが主要である。日本では、性的接触による感染が大半を占め、特に男性間性的接触による感染の割合が高い。感染初期には発熱、リンパ節腫脹などのインフルエンザ様症状が現れることがあるが、その後は無症状期間が数年から十数年続く。

現在では、抗HIV薬による治療が大きく進歩し、早期に治療を開始し、血液中のウイルス量を検出限界以下に抑制することで、エイズの発症を予防し、通常の生活を送ることが可能となっている。また、治療によってウイルス量が検出限界以下に最低6か月以上継続的に抑えられているHIV陽性者からは、性行為によってHIVが感染することはないとされている(U=U: Undetectable = Untransmittable)。

その他の性感染症

膣トリコモナス症は、膣トリコモナスという原虫の感染によって引き起こされる。女性では泡沫状の悪臭を伴うおりもの、外陰部の掻痒感が特徴的である。男性では無症状のことが多いが、尿道炎を引き起こすこともある。治療にはメトロニダゾールなどの抗原虫薬が用いられる。

性器カンジダ症は、カンジダ・アルビカンスなどの真菌によって引き起こされる。女性では外陰部の掻痒感、白色のヨーグルト状のおりものが特徴的である。性的接触以外にも、抗菌薬の使用、免疫力の低下などによって発症することがある。治療には抗真菌薬が用いられる。

毛ジラミ症は、毛ジラミという寄生虫が陰毛に寄生することによって引き起こされる。陰部の激しい掻痒感が主症状である。治療には、ピレスロイド系殺虫成分を含むシャンプーが用いられ、陰毛の剃毛も有効である。

感染経路と感染リスク

性感染症の主な感染経路は、性的接触である。膣性交、肛門性交、口腔性交のいずれにおいても、粘膜や皮膚を介して病原体が伝播する。精液、膣分泌液、血液、唾液などの体液に病原体が含まれており、これらが粘膜や傷のある皮膚に接触することで感染が成立する。

感染リスクは、性的接触の種類、感染者の病原体量、粘膜の状態、接触時間など、複数の要因によって変動する。梅毒やHIVなど、血液を介して感染する疾患では、他の性感染症に罹患していて粘膜に炎症や潰瘍がある場合、感染リスクが数倍から数十倍に増加することが知られている。

性的接触以外にも、母子感染、血液を介した感染(輸血、注射器の共用など)が感染経路となる疾患もある。特に、梅毒、HIV、B型肝炎などは、妊娠中または出産時に母親から胎児・新生児に感染する可能性がある。

症状と診断

性感染症の症状は、病原体の種類、感染部位、個人の免疫状態などによって多様である。男性では尿道炎症状(排尿時痛、尿道からの分泌物)、女性では子宮頸管炎症状(おりものの異常、下腹部痛)が代表的である。性器、肛門周囲の潰瘍、水疱、イボ、発疹なども重要な所見である。

しかし、性感染症の大きな特徴は、無症状または軽症のまま経過することが多いことである。特に女性における性器クラミジア感染症や淋菌感染症では、80%以上が無症状とされる。咽頭や直腸への感染でも無症状であることが多く、自覚症状のないまま感染を広げるリスクがある。

診断には、問診、視診、検査が重要である。検査方法としては、血液検査、尿検査、分泌物の検査などが用いられる。梅毒、HIVでは血清学的検査が主に行われる。性器クラミジア感染症、淋菌感染症では、核酸増幅法による病原体の遺伝子検出が高感度で広く用いられている。性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマでは、視診による診断が基本となるが、必要に応じてウイルス検査や病理組織検査が行われる。

疾患名主な症状(男性)主な症状(女性)検査方法
梅毒初期硬結、硬性下疳、全身の発疹初期硬結、硬性下疳、全身の発疹血清学的検査
性器クラミジア感染症排尿時痛、尿道分泌物(約半数は無症状)おりもの増加、下腹部痛(多くは無症状)核酸増幅法
淋菌感染症激しい排尿時痛、膿性尿道分泌物おりもの増加、下腹部痛、発熱核酸増幅法、培養
性器ヘルペス性器・肛門周囲の水疱、潰瘍、疼痛外陰部の水疱、潰瘍、疼痛視診、ウイルス分離、抗原検査
尖圭コンジローマ性器・肛門周囲のイボ状病変外陰部・膣のイボ状病変視診、病理組織検査
HIV感染症初期:発熱、リンパ節腫脹 後期:日和見感染症初期:発熱、リンパ節腫脹 後期:日和見感染症血清学的検査、核酸増幅法

治療

性感染症の多くは、適切な治療によって治癒が可能である。治療方法は病原体の種類によって異なり、細菌感染症には抗菌薬、ウイルス感染症には抗ウイルス薬、真菌感染症には抗真菌薬、原虫感染症には抗原虫薬がそれぞれ用いられる。

梅毒、性器クラミジア感染症、淋菌感染症などの細菌感染症では、ペニシリン系、セファロスポリン系、マクロライド系、テトラサイクリン系などの抗菌薬による治療が行われる。梅毒では、早期梅毒に対しては2〜4週間の抗菌薬投与が標準的であり、神経梅毒では点滴による治療が必要となる。

性器ヘルペスウイルス感染症では、抗ヘルペスウイルス薬の内服による治療が行われる。初発時には5〜10日間、再発時には5日間程度の投与が標準的である。年間6回以上再発を繰り返す患者に対しては、抗ウイルス薬を継続的に服用する再発抑制療法が推奨される。

HIV感染症では、複数の抗HIV薬を組み合わせた多剤併用療法が標準的である。現在では、1日1回1錠の服薬で治療可能な薬剤も開発されており、治療の利便性が向上している。

尖圭コンジローマでは、液体窒素による凍結療法、電気焼灼術、外科的切除などの局所療法が主に行われる。イミキモドクリームなどの外用薬も使用される。

治療において重要な点は、パートナーも同時に検査・治療を受けることである。片方のみが治療を受けても、パートナーが未治療のままであれば、再感染(ピンポン感染)が生じる。また、治療中は性交渉を控えることが原則である。医師の指示通りに治療を完遂し、治癒確認の検査を受けることも重要である。

疾患名主な治療薬治療期間の目安特記事項
梅毒ペニシリン系抗菌薬2〜4週間早期治療が重要、神経梅毒では点滴治療
性器クラミジア感染症アジスロマイシン、ドキシサイクリン単回投与〜7日間パートナーの同時治療が必須
淋菌感染症セフトリアキソン(注射)単回投与薬剤耐性菌の増加に注意
性器ヘルペスアシクロビル、バラシクロビル初発:5〜10日間、再発:5日間再発抑制療法も選択可能
尖圭コンジローマ凍結療法、外科的切除、イミキモドクリーム数週間〜数か月再発が比較的多い
HIV感染症抗HIV薬(多剤併用)生涯継続早期治療開始でエイズ発症予防可能

予防

性感染症の予防において最も基本的かつ有効な方法は、コンドームの正しい使用である。コンドームは、精液や膣分泌液が粘膜に直接触れることを防ぎ、多くの性感染症の感染リスクを大幅に低減させる。HIVでは約80%、クラミジアや淋菌では約70〜80%の予防効果があるとされている。

ただし、コンドームでは完全には予防できない性感染症も存在する。梅毒、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマなどは、コンドームで覆われない部位の皮膚や粘膜の接触によっても感染する可能性があるため、コンドームの使用だけでは完全な予防は困難である。

性的パートナーの数を限定すること、不特定多数との性的接触を避けることも重要な予防策である。性的接触を持つ前に、互いに性感染症の検査を受けることも有効である。

ワクチンによって予防可能な性感染症も存在する。HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となる高リスク型HPVおよび尖圭コンジローマの原因となる低リスク型HPVの感染を予防することができる。日本では、小学6年生から高校1年生相当の女子を対象とした定期接種が実施されている。B型肝炎ワクチンも、性的接触を含む感染経路での予防に有効であり、定期接種の対象となっている。

HIV感染のリスクが高い人に対しては、抗HIV薬を予防的に服用する曝露前予防(PrEP)や、感染機会後に緊急的に服用する曝露後予防(PEP)も選択肢として存在する。

定期的な検査の受診も重要である。無症状でも感染している可能性があるため、性的に活発な人や、複数のパートナーがいる人は、定期的に検査を受けることが推奨される。早期発見により早期治療が可能となり、合併症の予防およびパートナーへの感染拡大の防止につながる。

検査体制

日本では、保健所や医療機関において性感染症の検査を受けることができる。保健所では、HIVおよび梅毒の検査を匿名・無料で受けることが可能であり、夜間や休日の検査、女性専用日を設けている保健所もある。クラミジアや淋菌の検査を同時に実施している保健所もある。

医療機関での検査では、症状がある場合や医師が必要と判断した場合には、健康保険が適用される。無症状であるが検査を希望する場合(スクリーニング検査)は、自費診療となることが一般的である。

検査のタイミングは、感染機会から一定期間経過後が推奨される。HIVでは感染機会から3か月後、梅毒では3〜6週間後、クラミジアや淋菌では2週間後が検査の適切な時期とされる。ウインドウピリオド(感染後、検査で陽性となるまでの期間)を考慮して、適切な時期に検査を受けることが重要である。

郵送検査キットも市販されており、自宅で検体を採取して郵送し、結果を受け取ることができる。ただし、陽性結果が出た場合には、医療機関を受診して確定診断および治療を受ける必要がある。

疫学と発生動向

日本では、感染症法に基づき、性感染症の発生動向調査が実施されている。梅毒は全数届出対象疾患であり、すべての医師に届出義務がある。性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマは定点把握疾患であり、全国約1,000か所の性感染症定点医療機関からの報告に基づいてデータが収集されている。

梅毒の報告数は、2014年頃から顕著な増加傾向を示しており、2024年には14,663例が報告され、感染症法上の届出開始以降で過去最多水準となった。2025年には13,530例とやや減少したが、依然として高い水準が続いている。男女別では、男性の報告数が女性を大きく上回っているが、近年は20代女性の報告数増加が顕著である。

性器クラミジア感染症、淋菌感染症は、2010年代後半から微増傾向にある。特に20代の若年層における報告が多い。性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマも一定数の報告が継続している。

HIV感染症・エイズの新規報告数は、毎年1,000件前後で推移している。COVID-19パンデミックの影響による検査控えを経て、再び報告数が増加傾向にある。男性間性的接触による感染が全体の約63%を占めている。

若年層における性感染症の発生割合が高いことが、日本における性感染症対策の重要な課題となっている。性教育の充実、若年層に対する啓発活動の強化、検査・治療へのアクセスの改善などが求められている。

合併症と後遺症

性感染症を適切に治療せずに放置した場合、さまざまな合併症や後遺症を引き起こす可能性がある。

女性における性器クラミジア感染症や淋菌感染症では、骨盤内炎症性疾患を引き起こし、卵管の癒着や閉塞を生じて、不妊症や子宮外妊娠の原因となる。男性では、精巣上体炎を引き起こし、無精子症の原因となることがある。

梅毒では、第3期、第4期へと進行すると、大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全症などの心血管系病変、神経梅毒による麻痺、認知機能障害などの中枢神経系病変を引き起こす。現代では抗菌薬による治療が普及しているため、第3期、第4期まで進行する症例は少ないが、早期に治療を行わなければ、これらの深刻な合併症を生じる可能性がある。

HIV感染症では、治療を行わないまま経過すると、免疫不全が進行し、エイズを発症する。日和見感染症(ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス感染症など)、悪性腫瘍(カポジ肉腫、悪性リンパ腫など)を発症し、生命を脅かす。

高リスク型HPVの持続感染は、子宮頸がん、肛門がん、咽頭がんなどの悪性腫瘍の原因となる。子宮頸がんは、HPV16型、18型などの高リスク型HPVの持続感染が主な原因である。

母子感染と先天感染

性感染症の一部は、妊娠中または出産時に母親から胎児・新生児に感染する。これを母子感染と呼び、先天性の障害や感染症を引き起こす可能性がある。

梅毒に感染している妊婦が適切な治療を受けなかった場合、約40%の確率で先天梅毒が発生するとされる。先天梅毒では、胎児死亡、早産、低出生体重、新生児の骨軟骨炎、肝脾腫、リンパ節腫脹、発疹などの症状が見られる。晩期先天梅毒では、Hutchinson三徴候(Hutchinson歯、実質性角膜炎、内耳性難聴)などの特徴的な症状が出現する。妊婦健診では梅毒血清学的検査が実施されており、早期発見・早期治療により先天梅毒を予防することができる。

HIV感染症では、妊娠中の抗HIV薬投与、帝王切開での分娩、母乳を与えないことなどの対策により、母子感染率を1%以下に抑えることが可能である。

B型肝炎では、出生直後の新生児に対して、B型肝炎免疫グロブリンおよびB型肝炎ワクチンを投与することで、母子感染を予防することができる。

性器ヘルペスウイルス感染症では、分娩時に母親が初発または再発の性器ヘルペスを発症している場合、産道感染により新生児ヘルペスを引き起こす可能性がある。新生児ヘルペスは重篤な合併症を引き起こすため、分娩時に性器ヘルペスの病変がある場合には、帝王切開が選択されることがある。

社会的側面

性感染症は、医学的な問題だけでなく、社会的、心理的な側面も持つ。性に関連する疾患であるため、スティグマや偏見が存在し、感染者が差別や社会的孤立を経験することがある。このため、医療機関の受診をためらったり、パートナーへの告知が困難であったりする状況が生じる。

プライバシーへの配慮が重要であり、保健所での匿名検査の実施、医療機関でのプライバシー保護の徹底などが行われている。また、性感染症に対する正しい知識の普及、偏見やスティグマの解消に向けた啓発活動も重要である。

風俗産業に従事する人々においても、性感染症のリスクが高いことが指摘されている。ソープランドデリヘルファッションヘルスピンサロなどの性風俗関連特殊営業においては、定期的な検査の実施、コンドームの使用徹底などの感染予防対策が重要である。風営法に基づく規制も存在するが、実効性のある感染予防対策の推進が課題となっている。

若年層に対する性教育も重要な社会的課題である。学校教育における性教育の充実、家庭での性に関するコミュニケーションの促進、インターネットやSNSを通じた適切な情報提供などが求められている。

法的規制と政策

日本では、感染症法に基づき、性感染症の予防および患者に対する医療に関する施策が実施されている。梅毒は五類感染症の全数把握疾患として、すべての医師に届出義務があり、性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマは定点把握疾患として、指定された医療機関からの報告が義務付けられている。

厚生労働省は、「性感染症に関する特定感染症予防指針」を策定しており、2025年11月に一部改正が行われた。この指針では、性感染症の発生予防およびまん延防止に関する基本的な方向性、国、地方公共団体、医療機関、教育機関などの役割、普及啓発、検査・治療体制の整備などが示されている。特に、若年層における発生割合が高いこと、梅毒報告数の増加などを踏まえ、重点的に取り組むべき対策が明示されている。

HIV感染症・エイズについては、「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」が別に定められており、HIV検査体制の整備、抗HIV薬の普及、偏見や差別の解消などの施策が推進されている。

売春防止法は、売春を行う行為そのものを禁止しており、これに関連して性感染症の拡大防止も目的の一つとされている。ただし、実際の風俗産業の実態と法規制との間には乖離があり、実効性のある感染予防対策の推進が課題となっている。

関連分野の基礎知識

感染症法と性感染症

感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、感染症の予防およびまん延の防止を図り、公衆衛生の向上および増進を目的とする法律である。感染症を一類から五類、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症に分類し、それぞれの危険性に応じた対応が規定されている。

性感染症のうち、梅毒は五類感染症の全数把握疾患として分類されており、診断した医師はすべての症例を保健所に届け出る義務がある。性器クラミジア感染症、淋菌感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマは五類感染症の定点把握疾患であり、指定された性感染症定点医療機関からの報告が求められる。

HIV感染症・エイズも五類感染症の全数把握疾患である。B型肝炎は五類感染症の全数把握疾患(急性B型肝炎)および定点把握疾患(慢性B型肝炎)として分類されている。

免疫学的側面

性感染症に対する免疫応答は、病原体の種類によって異なる。細菌感染症では、抗体産生を含む液性免疫および細胞性免疫が重要な役割を果たす。ウイルス感染症では、特に細胞性免疫が重要である。

梅毒では、感染後に特異的抗体が産生されるが、治癒後も抗体が長期間残存することがある。このため、血清学的検査では、過去の感染と現在の活動性感染を鑑別することが重要である。

ヘルペスウイルスは、初感染後に神経節に潜伏し、免疫系による完全な排除が困難である。免疫力の低下時にウイルスが再活性化し、再発を繰り返す。

HIVは、免疫細胞であるCD4陽性T細胞を標的とし、免疫系そのものを破壊する。このため、適切な治療を行わないと、免疫不全が進行し、日和見感染症や悪性腫瘍を発症する。

一度感染した性感染症に対して、終生免疫が得られる疾患は少ない。多くの性感染症では、治癒後も再感染の可能性がある。

薬剤耐性の問題

性感染症の治療において、薬剤耐性の問題が深刻化している。特に淋菌では、薬剤耐性化が顕著であり、かつて第一選択薬であったペニシリン系、テトラサイクリン系、キノロン系抗菌薬への耐性菌が増加している。現在では、セフトリアキソンなどの注射用セファロスポリン系抗菌薬が第一選択とされているが、これらに対する感受性低下株も報告されており、将来的に治療が困難になる可能性が懸念されている。

梅毒では、ペニシリン系抗菌薬への耐性菌はほとんど報告されていないが、他の細菌感染症における耐性菌の増加状況を踏まえ、適切な抗菌薬使用が求められる。

抗HIV薬に対する薬剤耐性ウイルスも問題となっている。不適切な服薬により、薬剤耐性ウイルスが出現する可能性があるため、治療においては、医師の指示通りに確実に服薬を継続することが重要である。

薬剤耐性の問題に対しては、適切な抗菌薬の選択、不必要な抗菌薬使用の回避、治療の完遂、耐性菌のサーベイランスの強化などが重要である。

脚注・注釈・出典

関連項目

外部リンク

目次